円高要因はほぼ消えた、アベノミクス相場再開へ

(3) 円高の理由はほとんどなくなった

●ファンダメメンタルズ、需給面に円高要素はない

 不都合なことではあるが、株式のみならず日本経済にとって、為替は決定的に重要である。日本をデフレに陥れた最大の原因は、アベノミクス以前の民主党政権時代に急速に進んだ円高であった。そして今日本経済がデフレから脱して回復軌道に乗るかどうかは、円高が止まるのか、という点にかかっている。以下詳述するが、これ以上の円高の要因がほとんどなくなっていることは、日本経済と日本株式投資にとってはこれ以上ない好材料と言える。

 ファンダメンタルズ面では、より成長率が高く、利上げトレンドにある米ドルが、デフレ危機にさいなまれ長期金利をゼロに固定するという究極の金融緩和を余儀なくされている日本円より強いのは明白である。トランプラリー巻き戻しの過程で米国長期金利がピークの2.6%から2.1%まで低下し、その結果起きた日米金利差の縮小がドル安円高を一時的にもたらした。しかし、米ファンダメンタルズから考えて、これ以上の米国長期金利の低下は考えにくく、コアCPIの2.1~2.2%が下限であろう。とすれば日米金利差はここから再拡大していくのではないか。

●米国長期金利は反転へ

 米国長期金利の急低下は、①3月以降の米国景気指標が軟化していること(3月雇用増加数の鈍化、小売売上前月比低下、工業生産指数前月比低下、住宅着工前月比低下など)、②例年の季節調整上の統計の癖により第1四半期GDPが1%程度と鈍化が予想されること(4月28日速報値発表)、③帰属家賃の上昇率低下、通信やアパレルの前月比下落により3月のCPIの伸びが鈍化(コアCPIは過去一年間の前年比2.2%から2.0%へ)していること、等のファンダメンタルズに根拠を持っている。しかしいずれも景気の転換というよりはノイズ、というのがエコノミストのコンセンサスであり、米国長期金利は早晩上昇に転じていくだろう。
 
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●貿易黒字がなく対外投資旺盛の日本、強いドル需要

 また需給の面でも、まず日本の貿易収支はほぼ均衡しておりドル売り円買い需要はほとんど起こらない。また日本の経常収支は20兆円、対GDP比3.8%と大幅な黒字であるが、その9割は1次所得収支でありそれは為替需給にはほとんど影響しないと考えられる。なぜなら1次所得収支とは、日本企業が海外で行う投融資から得られる利益、利子や配当であるが、日本企業は海外で得た利益の大半を日本に還流させることなく現地で再投資しているからである。つまり海外投資で得た利益は円転換されず現地通貨又はドルで運用されているのであるから円高要因とはならない。

 更に投資対象難に悩む日本の機関投資家、個人投資家は、米国の高金利を無視することはできない。昨年の円安過程で急上昇したベーシススワップ取引におけるドルプレミアムは大きく低下しており、それも日本の証券投資家の海外投資を活発化させドル需要を大きく押し上げるだろう。このようにドルの観点から見ても、円の観点から見ても、またファンダメンタルズ面から見ても、需給面から見ても、円高になる合理性はほとんどないと言える。
 
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●トランプ政権の非論理的ドル安誘導は早晩止まる

 ではなぜ人々は円高を恐れているかと言えば、それはトランプ政権の為替圧力に対する懸念があるからだろう。トランプ氏は4月12日「ドルは高すぎる」と発言し、G20でも米国は各国の通貨安志向をけん制した。しかしトランプ政権のドル安志向は論理的に間違っているとともに米国国益にも全く合致していないので、早晩修正されざるを得ない。①米国の貿易赤字は問題ではなく是正される必要はない、②貿易赤字(経常赤字)は米国国内要因(投資貯蓄バランス)が原因であり他国に責任を転嫁できない、③貿易バランスは為替では調整できない、以上の3点は経済学の常識であり、トランプ氏の認識は赤恥ものである。おそらくフォード社などの入れ知恵で言わされているのであろうが、いずれピエロ役を演じさせられたことに気が付くだろう。ムニューチン財務長官が主張しているように、強いドルが米国の国益であることはいよいよはっきりしているのである(ストラテジーブレティン173,174,175,176号を参照)。

●「良い」経常収支所得収支、「悪い」経常収支貿易収支

 一般論として日本の経常黒字の大半が1次所得収支であり、それは全く非難される筋合いがない。経常収支は主に財・サービスの貿易収支と所得収支から構成されている。財・サービス輸出とは自国で作ったものを相手国に輸出するのであるから、貿易黒字を積み上げている国に対しては「本来発生していたはずの相手国の雇用を奪っている」との非難には一理ある。しかし、所得収支の黒字は自国企業が相手国で事業・投資活動を行った結果得られるもので、それは相手国での雇用に寄与している活動であり、むしろ感謝されるべきものである。図表9は主要経常黒字国の黒字内訳を比較したものであるが、同じ黒字国ではあっても、その要因が日本(大半が1次所得収支の黒字)と他国(中国・ドイツ・韓国等はほとんど貿易収支の黒字)で全く異なっていることが明らかだろう。極論すれば日本の黒字は感謝されるべき黒字、中国、ドイツ、韓国などの黒字は非難されるべき黒字と言える。

●米国が日本に為替圧力をかける合理性は全くない

 麻生副総理とペンス副大統領との間で始まった日米経済対話で為替問題が持ち出されることを当局も、市場も心配しているが、それも杞憂であろう。確かに日本は全体としては貿易収支はほぼトントンではあっても、対米では689億ドルと中国に次ぐ貿易黒字を計上しているので、トランプ政権がこの対米黒字を問題にすることを一概に不当だとはねつけることはできない。しかし、それ自体経済学的には理屈の通らない話なので、きちんと反論してトランプ政権やその影響を受ける市場関係者の誤解を解く必要はある。二国間だけの貿易収支を問題にすること、ましてそれを為替水準調整によって是正するということは間違っているということである。確かに日本は対米で大幅な黒字を計上しているが、産油国に対しては巨額の貿易赤字を負っている。二国間の貿易バランスは為替で調整されるべきだというなら、円は対ドルで大幅に値上がりするべきであるが、他方で日本円は産油国通貨に対しては大幅に安くなる必要がある。しかし産油国通貨のほとんどはドルにリンクしているわけで、この議論は直ちに袋小路に陥る。今の世界経済は産油国の巨額の貿易黒字と産油国通貨のドルリンクを所与のものとして成り立っているわけであるから、前述の日本の対米黒字批判やそれを円高で是正するべきだなどという議論は、まったくもって通用しない論理であるということが分かる。

●対中のみ為替圧力は正当だ

 唯一トランプ政権が為替問題を持ち出すことが正当なのは、中国が長期にわたって通貨介入により人為的に通貨安を維持し、巨額の対米黒字を積み上げている問題に対してである。中国は自国通貨下落リスクが強いためにここ二年間ドル売り介入をしているが、だからと言って中国の為替問題が無くなったとは言えまい。米国が人民元の急落が放置され中国の価格競争力がさらに強化されることを警戒することは、至極正当と考えられる。同様に米国財務省の直近為替報告書において、「日本円は過去20年間の平均レートと比較して20%割安であり、日本円が過大評価されているという証拠はない」、と論じていることも正しい評価とは言えない。過去20年間は過度の円高で日本の価格競争力が低下し、その効果が世界最大の貿易黒字国であった日本から貿易黒字をほぼ一掃せしめたのである。半導体、液晶テレビ、スマートフォン等日本の牙城であったエレクトロニクス(完成品)市場で日本メーカーがほぼ壊滅したのはそのためである。その言ってみれば懲罰的と言える過去20年間の為替水準を基準にして現状を論じることは、不当であろう。

●為替水準の履歴効果が重要だ

 長期的に見て為替水準が国際分業の在り方を大きく決定していくことは論を待たない。中国が異常な貿易黒字国となったということは、中国の通貨が(介入によって)長期にわたってフェアバリューから大幅に押し下げられていたという議論は正しい。同様に日本の貿易黒字が激減したということは、日本の通貨がフェアバリューから大きく上方にかい離していたということである。この為替の履歴効果を日本は米国に対してはっきりと理解させなければならない。今のドル円レートは過去の平均と比べて安いのは事実であるが、過去20年間の懲罰的円高時代との比較は公正ではない。過去との比較で現在の円は割安だと考えているエコノミストや市場関係者の誤りが是正されれば、円高圧力は大きく軽減していくだろう。

●為替が決める国際分業、新通商理論の理解も必要だ

 なおポール・クルーグマン氏がノーベル賞を受賞した新通商理論の鍵が「国際分業における履歴効果」であり、為替水準がその重要な経路であったこと、対日貿易摩擦を正当化した「戦略的通商論」はそれの現実政策への適用であり、大幅な円高誘導を伴って大きく成功したこと、トランプ政権はこの成功体験を対中通商交渉に使おうとしていること(次期米通商代表部USTR代表が、日米摩擦の立役者であったロバート・ライトハイザー氏であることがその証拠)、は機会があれば詳述したい。
 
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