ピケティ氏よりトランプ氏、世界過剰貯蓄に対する最適処方箋

【2】トランプノミクスが押し上げる
   米国の近未来経済ブーム

壮大なスケールの景気浮揚効果

 巨額の財政出動がもたらす財政赤字やドル高が引き起こす新興国経済に対する懸念ばかりが強調されるが、むしろ財政が引き上げる成長加速の連鎖効果に注目するべきである。特に減税案は、(1)法人税減税(税率を35%から15%に引き下げ)、(2)個人所得税の減税(現行7段階の累進税率を12%、25%、33%に引き下げ、最高税率を現行の39.6%から33%に引き下げ)、(3)キャピタルゲイン及び配当に対する減税延長、(4)相続税の撤廃など、壮大なものである。また累計2.5兆ドルにのぼる多国籍企業の海外留保利益の国内送金に対する課税軽減(35%から10%へ)により、税収増と海外からの所得還流が企画されている。これらがすべて実施されれば10年間で5兆ドル規模となり、それは米国名目GDPの2.8%に相当する、と推計されている。これに5,500億ドルと言われるインフラ投資と国防支出増が加われば、リーマン・ショック以降2.1%(2011-2015年平均)であった米国の成長率は、容易に1990年以降の長期成長トレンド3%を超えていくだろう。さらにエネルギーや金融規制緩和もビジネス活動を活発にする。次回中間選挙の2018年には経済成長率4~5%のブームが訪れる可能性は大きい。それはやがて、インフレと財政赤字拡大という2大景気阻害要因を育て、長期金利の上昇が次のリセッションをもたらすことになる。既に失業率4.9%と完全雇用状態にある米国のインフレ加速は、巨額の財政赤字とともに2018年以降の懸念要因として浮上しよう。しかしインフレと金利上昇に対してはドル高が大きな鎮痛剤となろう。つまりドル高が続けば、予想される経済ブームは2020年までのトランプ政権の任期中持続することも十分に考えられるのである。いうまでもなくドル高は米国金融の世界支配力を強め、トランプ氏が狙う世界覇権の強化にも結び付く。

トランプノミクスのloserは中国に、だが顕在化には時間が

 エコノミスト誌(11月19日)は、トランプノミクスに対する懸念として、(1)ドル高による新興国の金融破たん懸念、(2)ドル高による米国経常収支の悪化に伴う貿易摩擦、(3)格差拡大、の3点を指摘しているが、(3)は成長加速でむしろ緩和されるだろう。米国国内ではインフラ投資、エネルギー投資、住宅投資などにより国内筋力労働者雇用の増加が不満を和らげるだろう。

 問題は(1)、(2)であるが、それはひとえに中国問題であると考えられる。まず(1)のドル高による新興国の金融破綻について。1980年代初頭のレーガノミクス時のドル高は、1970年代の債務増加による経済ブームに沸いていた中南米諸国からの資金流出と通貨安を引き起し、中南米金融危機をもたらした。以降、中南米諸国は累積債務問題に足を取られ長期経済停滞に陥ったが、その再現が懸念されている。今日の懸念は巨額の対外債務をため込んでいる中国である。中国は4.6兆ドルと外貨準備高3.2兆ドルの1.4倍の対外債務を負っているため、ドル高・人民元安が続けば深刻な打撃を受けるであろう(債務がドル建てであれ人民元建てであれ、債権者or債務者に発生する損失は変わらない)。また(2)の貿易摩擦についても、1980年以降の米国の貿易摩擦相手国であった日本に対する米貿易赤字は大きく減少し、今日では米国の対外貿易赤字の5割を占める中国が貿易摩擦の主な標的であることは明らか。対中貿易摩擦は、トランプ氏が就任初日に中国を為替操作国に認定するとしていること、知的所有権侵害などの中国の不公正な通商慣行に対する批判に見るように、既に始まっている。つまりトランプノミクスの潜在的リスクは中国にあると言える。しかし、その顕在化はしばらく先になるのではないか。中国は当面、超金融緩和と巨額財政支出で経済の失速を回避しており、それは1~2年は続くだろう。ただ貿易摩擦の結果としての貿易収支の悪化と通貨安、国内債務(潜在的不良債権)の増加という、中国の危機の種は水面下で膨張の一途を辿るだろう。

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