米国利上げと中国の権力闘争

中国の大いなる不確実性

 但し大いなるリスクは海外情勢特に中国に存在している。中国経済は世界史上最大の過剰投資を遂行し驚異的高速成長を遂げたが、同時に空前の過剰供給力と巨額の潜在的不良債権を抱えつつある。将来金融危機を引き起こす土壌が醸成されていると考えられる。ここ1~2年を展望しても、①ハードランディング、②ソフトランディング、の二つのシナリオがあるとみられる。①のハードランディングシナリオは、国内の過激改革路線が企業破たん、不動産や株価の下落を引き起こし資金流出と元急落を引き起こすという経路をとる習近平過激改革路線によって引き起こされる可能性が強いと考えられる。習近平主席とその周辺のエコノミストは李克強率いる改革発展委員会中心の官僚による弥縫策路線を痛烈に批判してきたのである。一方②ソフトランディングシナリオは、改革の建前は堅持しつつも経済の急激な落ち込みを回避するための財政金融緩和の継続強化を優先し、一方では国際協調路線に重きを置く李克強首相のスタンスにより可能性が強まる、と考えられる。

習主席政治力が弱体化、李克強首相の景気重視・国際協調路線に

 この観点から、習近平主席の政治力が急速に弱体化しているとの観測は、投資においても大きな含意を持つ。李克強氏の景気重視、国際協調路線の遂行がより確かとなり、当面の世界経済と金融は大きく安定性を強めることになろう。習主席の指導力の後退に関して様々な観測がもたらされ始めている。習主席の数少ない腹心の一人であった黄興国天津市長の失脚が伝えられている。また「エコノミスト」誌(9/13号)はベテラン北京ウォッチャーである毎日新聞客員編集委員の金子秀敏氏の「異変!北戴河会議 長老に敗北した習主席」という記事を掲載し、個人独裁を強めようとしていた習主席がそれに反対する長老との権力抗争に敗れたという観測を報じている。金子氏は①北戴河会議以降、習主席の圧倒的指導力を示す最高指導者としての称号「核心」が消え、集団指導体制を意味する「習近平を総書記とする党中央」が復活した、②鄧小平の改革開放路線を継承する李克強批判を棚上げし、鄧路線を賛美し始めた、③習主席の意中の次期総書記候補である韓正上海市党委員会書記のプレゼンスが消え、孫政才重慶市党委書記(江沢民派)と胡春華広東省党委員会書記(共青団派)のプレゼンスが高まった。などの変化を観測の根拠として説明している。

李克強路線、米国も歓迎

 今秋の六中全会、来年秋の党大会により習近平国家主席後継者となる次期政治局常務委員が決まるまで、予断は許されないが、経済政策運営では李克強路線に純化される方向はほぼ明らかではないか。それは米国にとっても大いに歓迎すべき展開であろう。ルー米財務長官は2月末の上海G20のあと北京に飛んで李克強首相と二日にわたる会談を行い、中国が「元切り下げによる輸出振興をしない」という確約をしたことを高く評価した(“The risk of a devaluation has been greatly, greatly reduced”)。ルー長官の李首相に対する信認をうかがわせる。

 国際協調路線が強まり少なくとも近い将来での、中国ハードランディングの可能性は大きく低下する。ジョージ・ソロス氏などが主張する中国発世界危機シナリオは当分タナ上げされることになるのではないか。

小康状態続く中国経済

 8月の中国経済指標は全分野において小幅な改善傾向を見せている。鉱工業生産指数は7月の前年比+6.0%から8月は同+6.3%に上向き、実質小売売上高の伸びも7月の前年比+9.8%から8月は+10.2%に反発、年末に刺激策の打ち切りが見込まれる自動車販売が牽引役となった。固定資産投資は1~8月累計で前年比+8.1%、単月ベースでは過去最低だった7月の前年比+4.0%から8月は同+8.1%に上昇した。インフラ投資と不動産投資の伸びの改善が、製造業投資の低迷を打ち消す格好となった。貿易も8月輸入(ドルベース)は+1.5%と約一年半ぶりのプラスとなった。財政支出によるインフラ投資と金融緩和策が効果を見せていると考えられる。もっとも不動産販売床面積の伸びは7月の前年比+18.7%から同+19.8%に改善したものの、住宅着工は7月の前年比+8.1%から8月には+3.3%に再び減速している。不動産と製造業投資には警戒が必要な状況である。

 
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