超過利潤時代の中央銀行の挑戦、マイナス金利の導入

(4) 超過利潤時代の中央銀行の挑戦

中央銀行が直面している新しい現実
 それにしてもなぜ世界の中央銀行は急き立てられるように前代未聞の金融緩和を際限なく推し進めようとするのだろうか。それは中央銀行が直面している現実が、かつてとは全く変わってしまっているからであり、結果責任の当局は政策を変えざるを得ないからである。それはこれまでの常識や教科書の教条的信奉者からすれば、米・日・欧の中央銀行は禁じ手を連発しているように映るだろうが、仕方がないことである。

 新しい現実は、企業のもうけ(利潤率)は高まる一方、金利(利子率)は低下し、両者のかい離が際限なく広がっている、という点に集約的に表れている。両者間の裁定的動きが全くなくなってしまって久しい。金融政策の使命は、適切な資本配分により最大の経済的厚生(インフレ抑制下の雇用増大)を実現すること。しかし、利潤率が一方方向に上昇し利子率が一方方向に低下するという環境の下では、従来型の金融政策では資本配分の非リスク資産への偏りを是正できず、経済厚生を実現できない。そればかりか、資本と労働の余剰を高め、デフレの危機を強めてしまう。こうした環境の下で従来の常識からすれば、奇策、禁じ手が必要不可欠になってしまったのである。ゼロ金利、量的金融緩和、マイナス近の導入はそうした現実に対する挑戦と言える。

未経験の不等式「r1>g>r2」、原因は企業の超過利潤にある
 今の中央銀行が直面する金融困難を説明する不等式は「r1>g> r2」(r1が企業の儲け・利潤率、r2は企業の資本コスト・金利・利子率、gが成長)である。2つの不等式が同時に起こっているのが現在の情勢の大きな特徴である。利潤率が高い、つまり企業が儲かっており、現在の配当率は2%、企業の益回りは7~8%、そしてROEは8%と高い。では、企業が商売をやる時に必要な資金の調達コストはと言うと、国債の金利は日本もヨーロッパもゼロ・パーセント台。アメリカだって1%台、つまり、この両者との乖離が著しく大きくなっている。普通は利潤率と利子率は、ほとんど連動すると考えられ、実際そうであった。景気が良くて企業が儲かる時には当然金利が上がる。そもそも利潤も利子も資本のリターン、利潤率と利子率は、本来同じものなのだから、「r1= r2」これが普通の教科書的な経済の姿である。しかし、今起こっているのはr1とr2が極端に乖離し、そのサンドイッチになって成長率が停滞している。この現実をどのように解釈するかということが、今の経済情勢を理解する最も重要な鍵なのである。有名な『21世紀の資本』の著者トマ・ピケティの不等式「r>g」つまり利潤率が経済成長率よりも高い(それゆえに格差が拡大している)という議論だけでは不十分、「g>r」つまり利子率が経済成長率より低いというあと一つの現実がある。

 この「r1>g>r2」という普通ではない現実は企業が産業革命による生産性向上により、著しい超過利潤を獲得していることに根本の原因があると考えられる。つまり、企業は大儲けしている。しかし儲かったお金を再投資できなくて遊ばせ、金利が下がっている。先進国で顕著になっている金利低下は資本の「slack(余剰)」が存在していることを示唆している。また雇用の停滞、(失業率高止まり、低労働参加率、弱賃金上昇力)は、労働余剰「slack」の存在を示している。なぜ「slack(余剰)」が問題になるほど増加してきたのか。その原因は企業における労働と資本の生産性の顕著な上昇にあると考えられる。IT、スマートフォン、クラウドコンピューティングなどの新産業革命は、グローバリゼーションを巻き込み、空前の生産性向上をもたらし、労働投入、資本投入の必要量を著しく低下させている。それは直ちに企業収益の顕著な増加をもたらすと同時に「slack(余剰)」を生んでいるのである。エリック・ブリニョルフソンMIT教授、アンドリュー・マカフィーMIT教授は近著「The second machine age」で第二の産業革命が到来していると主張している。200年前の第一次産業革命は動力の発明により人間の筋肉労働が機械に代替され、飛躍的な生産性の上昇、経済発展と生活水準の向上をもたらした。今進行している第二の産業革命は情報通信機器、システムの発明により、知力、頭脳労働が機械によって代替されようとしている。図表2は米国のセクター別雇用推移であるが、新産業革命による生産性上昇によって、製造業と情報産業において大きな雇用減少が起こっていることが分かる。またIT技術の進歩によって機械価格は急激に低下し、グローバリゼーションの恩恵により新興国での工場建設コストも大きく低下している。ビジネスに必要な資本投入額は大きく圧縮できるようになっている。米国も日本においても企業は減価償却額をすべて再投資する必要がなくなって久しい。図表3は米国企業部門の資金余剰(設備投資を上回るキャッシュフロー=余剰資金)の推移であるが、2000年代に入り、ことに2008年のリーマンショック以降著しい資金余剰状態が定着していることが分かる。アップル、グーグルなどのリーディング企業は巨額の資本余剰を抱えることが常態化している。
 
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