フィリピン製造業発展戦略 ―オランダ病を超えて―

2、自由化をテコにした社会改革

 フィリピンでは、財閥や大土地所有者が支配層を形成し、大企業を所有しているのも彼らである。彼らは外資を歓迎しない。外資が新規参入すれば、自らの独占を脅かされるからである。

 しかし、世界の流れは、経済の国境を破る方向に動いている。TPP然り、中国が参加するRCEP然りである。国内の既得権益層の思い通りにはいかない方向に世界の潮流はある。自由化が進み、外資が入ってくれば、国内の既存企業と競争する。通常、外資は保護貿易で守られてきた国内の独占企業より効率的で競争力があるから、既成勢力の力を削減していく。この経済メカニズムで財閥・大土地所有層による支配からの脱却の道が開けてくるのではないか。富の分配が修正されれば、所得格差が是正に向かい、庶民はもう少し豊かになろう。工業化のための消費市場を用意することになる。

 以下のようなシナリオが描ける。

 自由化・規制緩和→直接投資(FDI)外資参入→既成勢力の力削減∥経済メカニズムによる社会改革(富の分配変更)→格差是正・国民の豊かさ向上→消費市場拡大→消費地立地型外資進出∥製造業発展→雇用創出→成長による貧困減少→消費市場拡大→外資参入→既成勢力との競争→・・・という良循環が生まれる。

 実はこの社会改革シナリオは、筆者が17年前、アジア通貨危機の直後(1998年)、フィリピンを訪問した時に描いたものである。(7)今回のフィリピン訪問iがTPP大筋合意のニュースと重なったため、思い出した。フィリピンは政治的に米国に近いにもかかわらずTPPに参加していないが、南シナ海をめぐる国際情勢の変化等から、TPPに対し積極的な姿勢に変わる可能性は大きい。そうなれば、先のシナリオが実現に向かう。

 経済成長のドライビングフォースは製造業である。高い失業率を改善するのも雇用吸収力の大きい製造業の発展である。フィリピンは治安の安定、人口1億の巨大消費市場、人口ボーナスの本格化も間近いことを考えると、製造業部門への直接投資の増加が予想される。製造業が成長セクターに加わることによって、フィリピンの経済発展は確かなものになって行くであろう。

(末尾注)
(1)本稿の初出は拙稿「フィリピン新展望‐製造業発展戦略は可能か‐」Webみんかぶマガジン(ニュース/記事コラム)2015年11月2日https://money.minkabu.jp/52567。若干加筆修正した。今回のフィリピン訪問は2015年10月初旬である。

(2)GDPに占める海外からの郷里送金の割合を見ると、メキシコ1.9%(送金額240億㌦)、インド3.4%(698億㌦)、中国0.4%(411億㌦)、パキスタン8.5%(212億㌦)、バングラデシュ8.5%(156億㌦)、タイ2.8%(115億㌦)、ベトナム5.2%(96億㌦)、インドネシア1.1%(94億㌦)、ミャンマー5.2%(33億㌦)である(2014年値、IMF, IFS Jan.2016)。

(3)フィリピンにおけるオランダ病に関する研究として、槇太一「OFW、海外送金とフィリピンの経済発展」『Journal of the Faculty of Economics, KGU,Vol19,No.1,September 2009』 がある。槇は製造業の不調の淵源は1980年代の直接投資の低迷が原因ではないかとしている(p.92)。なお、海外からの郷里送金とオランダ病に関する研究のレビューとして、松井謙一郎「中南米地域の郷里送金とオランダ病」外国為替貿易研究会『国際金融』1198号(2009年3月1日)がある。

(4)筆者は円が変動相場制に移行した初期の頃(1978年の円高)、為替レートの変化が日本の産業構造の調整に及ぼす影響を分析したことがある。拙稿「5章 円高で産業界はどうなる?」金森久雄ほか『円高』東洋経済新報社1978年、拙稿「円高が拍車をかける構造不況業種の分解」『週刊東洋経済近経シリーズ№46』1978年10月18日号。日本は長年、1ドル=360円という割安な為替レートのもと保護されてきたので、78年当時、産業間の比較優位格差が大きかったため、1ドル=240円への円高が割安な円相場の下保護されてきた産業が輸出産業から脱落していく状況を実証した。

(5)拙稿「[ミャンマーへの提言]労働力の質の高い国に直接投資が来る‐就学率と直接投資の関係‐」『日本経済大学大学院紀要』Vol2,No1(2013年12月)参照

(6)拙稿「ミャンマーの人的資源の展望」『日本経済大学大学院紀要』Vol2,No2(2014年3月)参照

(7)拙著『走るアジア遅れる日本』日本評論社2001年、第6章参照。なお、同稿の初出は『日本経済研究センター会報 1999年1月15日号』、『貿易と関税』2000年4月号pp60~67である。ただし、外資参入による社会改革(富の分配変更)のシナリオは同じであるが、ここでは内需志向型の直接投資を考えたわけではない。

 

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