フィリピン製造業発展戦略 ―オランダ病を超えて―

4、人口ボーナスは発現しているか?

 フィリピンは若者が多い。子供たちも多い。平均年齢は24.2歳(2015年)で、ASEAN諸国で一番若い(注、ミャンマーは27.9歳)。マニラ南東150㎞に位置する小さな地方都市(ケソン州Lucban,人口5万人)で小学校を訪問した。校庭いっぱいに子供たちが溢れ、日の丸の小旗を振って歓迎してくれた。1960年頃の日本の地方で見た光景である。懐かしく、感動的な光景であった。フィリピンを考えるキーワードの一つは「人口」であることを実感した。

(1)人口ボーナスの定義
 フィリピンは、生産年齢人口の伸び率が高い。15~64歳人口は2010年から2050にかけて1.7倍になる。ASEAN随一の増加率である(表6参照)。人口1億、そして若い労働力が豊富であるから、工業発展、経済発展が期待できるとされる。現地でヒヤリングすると、「人口ボーナス」としてこの点が強調される。

 確かに、表11に見るように、生産年齢人口は、タイは早くもピークアウトし、ベトナムやミャンマーの増加率も緩やかである。これに対し、フィリピンの生産年齢人口は増加を続け、2050年には9878万人に達し、労働力の豊富さではインドネシアに次ぐ存在だ。日本の労働力の約2倍の規模である。

 しかし、「人口ボーナス」と言う概念は、少し違うのではないか。通常、「人口ボーナス」とは、生産年齢人口(15~64歳)が多く、被扶養人口(子供+老人)が少ない人口構成の状態を指す。子供の扶養が減り、高齢人口の割合が高い水準に達する前、つまり、労働力資源が豊富で扶養負担が軽く、そして貯蓄率が高まる、経済発展に有利な時期を言う。(ちなみに、0~14歳+65歳以上を「従属人口」という)。しかし、フィリピンは出生率が高く、まだ子供の扶養が多い。

 通常、人口ボーナスは一国の出生率が急速に低下し高齢化が進む過程で現われる(ただし高齢人口の割合が高い水準に達する前)。そして、生産年齢人口がそれ以外の人口(従属人口)の2倍以上になる状態を指す(従属人口指数の逆数で2.0以上、つまり従属人口指数が50を切った期間を人口ボーナス期と言う)。(注、従属人口指数が低下し始めた時点を人口ボーナス期の始点とする議論もある)。

 フィリピンは、学会で使われている「人口ボーナス期」に達しているだろうか。表10に見るように、従属人口指数が50を切ったとき、あるいは逆に人口ボーナス指数が2倍以上になったときと言う定義からすれば、まだ人口ボーナスは発現していない。従属人口指数は57.6(50を切っていない)、人口ボーナス指数は1.7倍(2倍になっていない)の段階である。ただし、従属人口指数が低下し始めたときとすれば、入り口に達していると言えよう(従属人口指数は2000年71.6、2010年60.7、2015年57.6と低下)
 
zu10
 
zu11
 
 フィリピンは出生率が高い。アジア諸国は出生率が急速に低下しているが、フィリピンの合計特殊出生率は2010~15年でも3.04の高さにある。そのため、14歳未満の被扶養人口が多いのが特徴である。労働力人口よりも、養われる人口の方が多い(従属人口指数は2015年現在57.6の高い水準にある)。働く人より、消費する人の方が多いのである。貯蓄率が高まる状況になく、資本蓄積に限界があるのではないか。これでは高成長は出来ない。  

 そもそも、生産年齢人口の増加がASEAN随一であるにもかかわらず、「人口ボーナス」はまだ本格化していないのである。

(2)東アジアの成長要因は人口ボーナスより直接投資
 筆者は、もともと、人口ボーナス論そのものに批判的である(注)。東アジア諸国の雁行形態的テイクオフは、繊維の東レ、帝人、電機の松下、三洋、日立、東芝、日本電気、自動車のトヨタ、日産、本田技研、等々、日本の企業が資本も技術もマネージメント能力も束ねて現地に経営資源を移転(直接投資)した成果である。「直接投資+輸出」が東アジア型経済成長のメカニズムであり、アジア新興諸国は直接投資受入れが起爆剤となって成長してきた。

 直接投資の呼び込みに成功した国が次々とテイクオフしたわけであるが、直接投資はHuman capital(人的資本)の蓄積が厚い国に来る。人口ボーナス期を迎えているかどうかに関係なく、治安が安定し、ヒューマン・キャピタルが豊富にあれば、外資が直接投資で進出した。現地生産は輸出に向けられ、輸出主導型の経済成長が始まったのである。(5)(6)

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