異説・中国経済論 ‐中国は失速するか、世界株安の犯人は中国か‐

(4)人民元切り下げの3つの効果

 8月11,12,13日の人民元の基準値切下げは3つの側面/効果がある。
 第1は、人民元を国際通貨基金IMFの特別引き出し権(SDR)に加えるための措置である。これはもともとは「国際通貨」の仲間入りのため中国側からの要請であるが、IMFから「人民元の基準値が市場の実態からかけ離れて高い」と指摘され、過大評価されていた元相場を市場の実態に合わせるため人民元切り下げを行ったものである(下落幅は4.5%)。つまり、IMFの要請である。
 
 第2は、元安である以上、輸出促進効果がある。
 
 第3は、金融緩和政策の効果を高める効果がある。中国の為替制度はドルと連動するように基準値を動かすソフトペッグ制度を採用しているため、人民元をドルに連動させるためには、人民元を買ってドルを売る為替介入をしなければならない。人民元を買って吸収したら金融引き締めになり、景気を悪化させる要因になる。つまり、ドル連動の為替相場は内需の悪化要因なのである。人民元の基準値を市場の実態に合わせることで、金融緩和の効果を削ぐことが避けられる。
 
 人民元の基準値切下げは上記3つの側面があるが、何故か、第2の輸出促進効果に注目が集まった。輸出テコ入れのための元安誘導と解釈された。また、「通貨安競争」の引き金を引くものとして、近隣窮乏化政策として中国への批判が高まった。しかし、先述のように、中国は世界で一番の“通貨上昇”の国になっている(この3年で、実質実効為替レートは20%高)。4.5%元安に誘導したところで、輸出がおいそれと伸びるわけではない。
 
 8月の人民元切下げの経済効果は、第3の側面、国内の金融政策の効果を高める側面を重視したほうがいいのではないか。各国の「競争的通貨切り下げ」の恐れはおきていない。それより、金融緩和政策の効果が発揮され、中国経済が回復に向かうことの方が、中国向け輸出が増えるので、アジア諸国にとってプラスなのではないか。筆者はその観点から、過大評価されていた人民元を市場の実態に合わせた8月の人民元の基準値切下げは正しい政策であったと考える。
 
 第2の側面だけに着目し、近隣窮乏化政策だとの批判は何処まで妥当なものであろうか。また、輸出促進策に転じなければならないほど、中国経済は悪化していると言う見方が広まり、そこから、市場は中国経済の先行きを懸念し、世界に株安の連鎖が広がった。8月11,12,13日の人民元切り下げを切っ掛けとした世界株安は、ウソから出た真のようなものだ。

もう一つの問題は、輸出テコ入れ策と言う解釈は元の先安感を予想させ、資本流出を誘った。人民銀行は為替相場の急激な変動を避けるため、元買い・ドル売り介入を行わざるを得なくなっている。市場から元を吸い上げることになり、金融緩和の効果を削いでいる。このように、8月11日の不用意な人民元切下げ、一方で「中国ショック」を煽る一方的な解釈は、じつに厄介な問題を引き出している。
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 中国の輸出減少、GDPの成長減速は、いずれも3~4年前から起きている。最近の世界株安の「中国犯人説」には疑問がある。冷静さが必要だ。震源地は世界の金融市場にあるのではないか。この数年、日米欧の強力な金融緩和で世界中にマネーが溢れていたが、米国の利上げ懸念はじめ、いまその転機が訪れていることが、国際的な金融市場が不安定さを増す要因であろう。
 
 中国を大国として演出するため、人民元を市場の実態より高めに誘導していたことが、今回の騒ぎの遠因である。無理な元高より、米国と政策協調して、米国は利上げを慎重にし、中国は効果的な政策を取り、両国が世界経済を安定させることの方が、「新型大国関係」の証明になろう。
 また、強権的な市場介入が市場の不人気を呼び、それが中国犯人説などの「風評被害」をもたらしている。市場メカニズムに沿った政策運営がたいせつである。
 
 (参照)拙稿「中国経済 日本も通った道-まだ減速するが、やがて安定成長へ-」山形新聞2015年9月10日付け、「直言」(7面オピニオン欄)。

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