中国、繰り出される究極の弥縫策、Contingency plan発動か~高まる存在感とは裏腹に~

(3) 繰り出される究極の弥縫策、Contingency plan(危機対応プラン)の発動

インフラ投資と金融緩和、株価対策
スマートフォンやドローンなどのハイテク部門での中国企業の躍進は華々しいが、それだけでは巨大な成長の穴を埋められない。よって今は、なりふり構わぬテコ入れ政策が相次いで打ち出され、かろうじて失速を免れている状況と言える。テコ入れの第一の柱は過大投資の上に屋上屋を重ねる高速鉄道、地下鉄、高速道路などのインフラ投資である。第二は金融緩和であり、預金準備率引き下げ、金利の引き下げ、住宅ローン規制の緩和、預貸比率規制(従来75%上限)の撤廃などがすでに実施されたが、加えて地方政府債務の証券化とそれの中央銀行引き受け(中国版量的金融緩和)が検討されている。不良資産化する恐れのある資産の証券化と銀行引き受け、そのために進行する金融緩和は、壮大な不良資産の国家移転(国への付け替え)となる可能性があり、財政赤字の急増を予見させる。最も必要な国有企業の改革や労働分配率引き上げによる消費主導経済への移行などは棚上げされ、経済長期展望は絶望的となっている。

★図表12-13

なりふりを構わぬてこ入れ策は株式市場において顕著である。先月まで1年で2.5倍という突出した株価上昇が進行し、そこから1ヵ月で35%の株価暴落がおこった。企業破たんや経済急減速により収益悪化が推測されており、本源的企業価値衰弱の下でのここ一年間の株価急騰は明らかにバブルであった。しかし、中国当局はこのバブル崩壊を容認できず、常識を超える下支え策を打ち出し、下落を食い止めた。この間のテコ入れ策をざっと挙げれば、当局の大号令に従った大手証券会社21社連合による1,200億元(約2兆4千億円)規模の上場投資信託(ETF)購入、新規株式公開(IPO)の承認凍結、大量保有株主による株式売買の半年間停止、「悪意ある空売りの懲罰」などである。加えて証券情報の統制、風説の流布の禁止など市場経済システムを採用している国ではありえないものばかりである。中国政府は今後も信じがたい手を繰り出してでも株価のさらなる暴落を食い止めるだろう。むろん公的介入で株価が持ち直せば、帳簿上の富がある程度確保されるが、それは本源的企業価値からどんどん乖離してしまう。株価はいわば経済の体温計であるが、そのメモリを意図的に変えてしまうのであるから、それは市場原理の否定そのものであり、グローバルな尺度で見て中国株式市場の死を意味しかねない。

社会思想統制の強化
こうした一連の動きは、中国においていよいよ本格的危機の到来を想定し、Contingency plan(不測事態封じ込め対策)がとられ始めたことを示しているのかもしれない。本格的危機となれば、民心を安定させる治安対策も重要になる。

7月1日、戦前日本の治安維持法を想起させる幅広い社会統制権限強化を目指す「国家安全法」が成立し、早速広範な人権派弁護士の摘発が相次いでいる。その前兆は今年1月中国共産党と政府が「大学に社会主義的価値観の徹底を求める意見」を発表し、大学からの西側の価値観の排除を指示した時に現われていた。大学を「マルクス主義や中国の偉大な夢、社会主義の核心的価値観の最前線」との位置づけたのであるが、その延長線上で、いよいよ思想統制、言論統制が全社会を覆うこととなったのである。

一転対外姿勢は融和に傾く
対内統制とは逆に対外姿勢には顕著な軟化が現われている。習近平政権は歴史問題により首脳会談を拒否するなど厳しい対日姿勢を維持してきたが、安倍首相の訪中招待、先週訪中した谷内国家安全保障局長の厚遇など手の平を返す急変が起きている。中国の南沙諸島岩礁埋め立てと人工島建設により米国は対中姿勢も硬化しているが、9月の習近平訪米を前に、米国に対する融和的な態度の変化もみられる。一見矛盾する対内統制強化と対外宥和が急に打ち出されていることも、本格的危機の到来を想定し、Contingency planが発動されているということではないか。これらに共通するのは副作用を承知の上での危機封じ込めの劇薬ということ。短期的には危機の発現は抑え込まれるだろう。

短期ではContingency plan 奏功、改善へ
高まる存在感と全く逆の経済困難、そして究極の弥縫策、こうした要素の何が今後の趨勢を決めていくのだろうか。高成長が持続し世界の経済・政治において中国のプレゼンスが高まり続けるシナリオはもはや無いのではないか。いずれかの時点で成長が停止し経済危機がぼっ発するだろう。その先には共産党独裁体制に関わる体制問題が浮上する。対外膨張を続ける中国に対し米国も、重い腰を上げ始めた。米中新冷戦の兆しとも考えられる。危機はどう発現するか、また世界と日本に対する影響はどうか、中長期的にはとてつもない不確実性である。

とは言え短期では、弥縫策が功を奏するだろう。米国主導の先進国経済の成長加速による輸出改善が見込まれることもあり、経済のこれ以上の失速は免れそうである。株価対策も効いている。目先マドルスルー(やりくりでしのぐ)、中期警戒、長期悲観が適切な見方ではないか。

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