Buy in May、好循環始動への萌芽が注目される

(3)イエレン発言の背景、どう理解するべきか

イエレン発言の真意
5月6日にイエレンFRB議長は「現時点で株式市場のバリュエーションは全般的にかなり高くなっている」と発言。「潜在的な危険が存在している」との認識を示した。株が割高か、債券が割高か、両方とも割高か、イエレン議長は両方だと言っているようであるが、真意は何か。株価調整の始まりとなるのだろうか。

労働市場はほぼ完全雇用に近づき、賃金上昇率の強まりも確認され、9月か年末かは分からないが、FRBはいよいよ最初の利上げの決意を固めているとみられる。そこで利上げをした時にマーケットが過剰反応をしないように、一体どのような市場価格が適正なのかをマーケットが十分に織り込むように、敢えてこの時期に株価と債券の妥当なレベルを問いかけたというのがイエレン発言の真意だろう。株式への影響はごく限定的であろう。

★図表8-10

債券は割高だが株は割高とは言えない
イエレン議長が主張しているように、株も債券も割高だと考えるべきなのか。筆者は、債券は割高で、これから金利が大きく上昇していくが、株価はむしろ依然として割安だと考える。
確かに割安感は大分薄れている。現在の米国株式PERはほぼ18倍と17.4倍(リセッション前の2003~2007年の平均値)を超えてきた。またCAPE(景気変動を平準化したPER)は27倍前後と1996年から2000年にかけてのITバブル膨張期ほどではないが、高水準となっている。しかし、株式が金融資産であるからには、妥当株価は競争する他の金融資産のリターン(預金金利や国債利回りなど)と無関係に決まるという想定は、理論的ではない。長期金利の水準、つまりビジネスにとっての資本コストが歴史的低水準であることを勘案すると、株式の妥当値(適正なPER水準)は相当上昇すると考えるべきではないだろうか。

図表9は米国株価のフェアバリューを示すFRBモデルのグラフである。FRBモデルとは、益回り=10年国債利回りとなる株価がフェアバリューであるとの想定に基づく単純なモデルであるが、2000年までは(1999年のITバブル形成時を除き)このFRBモデルがほとんど完全に機能していた。つまり、金利が上がって債券が下落すれば、同時に株価が下落して益回りが上昇するというように、債券市場と株式市場との間で完全な裁定関係が成立していた。債券市場と株式市場には常に資金移動、フィードバックが起こっていたのである。しかし2000年以降、米国の株価は利益と長期金利との裁定関係を完全に失ってしまった。2000年以降、株式のフェアバリューの尺度がなくなるということが起きた。株価は長期金利が低下を続けたにもかかわらず下落、益回りは上昇し、株式益回り>10年国債利回り、という不等式が長期にわたって続き、両者のかい離が2012年まで拡大の一途をたどったのである。つまり債券が著しく割高か、株式が著しく割安か、またはその双方か、が起きているのである。

根本原因は利潤率と利子率のかい離
今米国で起こっている最も基本的問題は雇用がなかなか増えないこと、そして資本が余って長期金利が史上最低まで低下していること、つまり労働と資本の余剰が著しく高まっていることである。その結果、利潤率がかつてなく上昇する一方で、利子率が大きく低下し、両者のかい離の拡大が続いているのである。何故、本来同じ資本のリターンであるはずの利潤率と利子率が著しくかい離し、ここ十数年かけて乖離が一段と拡大してきたのか。それは新産業革命によって資本の生産性が大きく上昇(設備コストが大きく低下)してきたからと考えられる。生産性が高まるのに経済の規模が今までと同じであれば、労働と資本の余剰は際限なく高まり経済は崩壊してしまう。よって必要なのは労働と資本をフルに活用できる需要創造なのである。大恐慌時には資本と労働余剰が高まっている局面に、誤った政策によって需要収縮の悪循環が起き、経済危機が深刻化した。しかし、今回のリーマンショックではバーナンキ前FRB議長は、2008年に株価の暴落が始まると直ちに量的金融緩和を行い、需要創造政策を打ち出した。大恐慌時のように4年間の政策の空白がなかったことによって、この経済困難を、今回は見事に比較的軽いリセッションにとどめることができたのである。
このように生産性の上昇の結果もたらされた労働と資本の余剰に対して政策がどのように対応するかということが、経済と市場にとって決定的に大事な鍵なのだということが分かる。

FRBは市場フレンドリーな政策を堅持
まさしくFRBが実施してきた量的金融緩和は、余っている労働と資本をフルに稼働させるための土俵作りである。イエレン議長も需要創造を政策の最重点においてきたバーナンキ前FRB議長の路線を完全に踏襲している。こう考えると、FRBが金融引き締めによって市場を混乱させ、本来起ころうとしている需要創造に冷や水を浴びせようなどということをする訳はないことが分かる。また1937年の回復初期の引き締め政策が再度リセッションを引き起した経験に鑑み、早すぎる引き締めを警戒していることも明らかである。
結論としてFRBは資本と労働余剰がある局面で、需要を抑制するような政策、過度の利上げと引き締めはやらない、FRBの金融政策は当分フレンドリーであると想定できる。イエレン議長は2013年5月にバーナンキ議長がテーパリング開始を示唆した時の市場混乱に言及しているが、その時にも長期金利は一時的に急反発したものの、株価の上昇基調が続いたことを想起されたい(その前6か月で8割の急騰を遂げていた日本株だけは大幅な調整とはなったが米国株式への影響は軽微であった)。

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