新潟農業とイノベーション・ジレンマ‐大変革か衰退かの岐路に立つ‐

4、イノベーターのジレンマ

 米国ハーバード大学のクレイトン・クリステンセン著『イノベーションのジレンマ』は世界中でベストセラーになった(Clayton N. Christensen, The Innovator’s Dilemma, 1997。邦訳[増補改訂版]2001年)。クリステンセンは過去の成功体験が自己変革の足枷となり、競争力を失っていく危険を指摘した。新潟の農業はクリステンセン仮説の危機に直面しているのではないか。

 新潟県の農家は経営規模が比較的大きく、そして良質米コシヒカリは価格も高いため、新潟の農家は潤ってきた。好条件に恵まれてきたため、農家の階層分解が遅れ気味である。第2節で分析したように、中規模層は多いが、大規模層への耕地集積は他産地に比べ遅れている。今まではそれが合理的だったのである。しかし、米価が下がってくると、規模拡大によるコストダウンを追求できないと、利潤圧縮に見舞われる。

 経営規模3~10ha程度でも、高米価の下、比較的豊かな農家であったため、それが足枷になって農地の流動化が抑制され、規模拡大のイノベーションが緩慢であった。仮にこのままの状況が続けば、新潟県は後塵を拝することになろう。一方、米価も下がる。稲作のトップランナーの地位を他産地に譲ることになろう。  

 もちろん、これは宿命論ではない。条件の変化に対応して、農地集積、規模拡大への動きが活発化すれば競争力を維持できる。その可能性は十分ある。高米価の下、兼業で2~3ha水田経営することは合理的であったから、階層分解が遅れただけである。条件が変われば、高齢化、農機の更新時期の到来とともに、農地の流動化が起きるであろう。農家は合理的選択をするであろう。筆者は悲観論には立たない。

 水田農業は「ビッグ・イノベーション」の時代に入っていく。規模拡大だけではない。「水田だからコメを植える」のではなく、輸入の多い飼料作物(トウモロコシ)への転作、あるいは稲作の後の冬期に飼料作物を栽培するなど、経営形態の転換が進むであろう。“水田裏作”の飼料作物としてはライ麦が最適である。また、「田植え」を止め、直播にすれば、大幅に省力化し、コストダウンできる。水田農業は単収増などの栽培技術の向上だけではなく、経営上の大転換が迫っている。「ビッグ・イノベーション」と表現した所以である。(注)

(注)拙稿「水田農業のビッグ・イノベーション(1)(2)」『週刊農林』2014年10月5日号、同15日号。また、拙著『新世代の農業挑戦‐優良経営事例に学ぶ‐』全国農業会議所刊2014年、第1部5章参照。

 新潟農業は、クリステンセン仮説に従うか、水田農業のビッグ・イノベーションを展開するか、岐路に立っている。

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