ベトナム訪問記-チャイナプラスワンが農業発展への道-

3、ルイス転換点以前の農業

◇人口の農村滞留、小零細農家
 ベトナムはまだ農業国家である。就業人口の47.4%は農林水産業に就いている(2012年)。ハノイ農業大学の先生たちと議論すると、農業政策の課題は、第1は土地問題、つまり農家の規模拡大である。1988年に土地を国有化し、農家に人数で均等分配したため、1人当たり耕地は多くて1haである。しかも、肥沃度を考慮してあちこち分散させて配分したため分散錯圃である。これが農業経営の近代化を阻害していると言われる。(戦後日本の農地改革と同じだ)。

 第2は、農産物の競争力が低い。収穫後の加工、保存が悪い。この点は、何処に行っても聞かされたことである。

 現状は、人口の約半分が農村に滞留しているから、農民1人当たり耕作面積が小さいのは当然である。また、農村人口が多いため、農業は過剰就業で賃金が低いから、機械化せず、伝統的な農法が続くのは当然だ。現状はベトナム経済のルイス転換点以前の農業である。
 こうした課題の解決は、かなり先の事であるような感覚で話題にされている。しかし、筆者は、案外に早く来るのではないかと見る。なお、ベトナムはいち早くTPP参加を表明したのであるが、TPP論議は全くの無風状態であった。

◇工業発展の後に、農業革命
 ベトナムは工業化が始まっている。産業構造も変化しており、農林水産業の比重はGDPベースで1990年38%、2000年25%、2012年20%と低下した。就業者ベースで見ると、2000年65%、2008年53%、2012年47%である。低下トレンドが支配している。

 既に、都市近郊の一部農村では高齢化が進んでいる。農業の担い手は60~70代の父母だけであり、かって日本で1960年代~70年代に言われた「三ちゃん農業」になっているところもあるようだ。農業労働力不足で、都市部より日雇い賃金が高いようだ。工業が順調に発展すれば、やがて人口の農村滞留問題も解決の方向に向かうのではないか。

 工業分野が発展すれば、都市部で労働需要が増え、ディマンドプル型で農村から人口が流出し、農業労働力が減少する。工業が発展し、労働者の賃金が上がるほど、農村から都市へ人口移動が起きる。人口が都市に移動し、離農が増えれば、農業で残る人たちの規模拡大が可能になる。また、過剰就業が解消し、農業労働の賃金が上昇すれば、機械化が進み、長く続いた伝統的な農法も変わっていくであろう。

 つまり、工業発展の後に、農業革命が起きると考える。労働力過剰から不足の時代に入っていくルイス転換点を経過して初めて、農業は本格的な発展期に入る。今後10年もすれば、ターニングポイントが現われるのではないか。

 チャイナ・プラスワンを勝ち抜き、工業が発展することが先決である。工業発展と共に農業分野でもイノベーションが起き、技術水準が向上し、農水産物の加工技術や流通技術も向上する。今のベトナム農業の弱点は、加工・流通の技術が悪いため品質が悪く、価格が安いという事にある(コメも破砕米が多い)。これを克服した時、ベトナムは本格的な農水産物輸出国になろう。

 まず、先行して、輸出セクターで農業近代化が始まるのではないか(筆者の仮説)。現状は、ベトナムの農林水産物輸出は極めて少ない。人口1人当たり輸出は、タイ513㌦に対し、ベトナムは161㌦に過ぎない。農業資源は多い、農民も多いのに、なぜ輸出が少ないのか。加工技術、流通技術(コールドチェーン等)、マーケティングが不足しているからではないのか。ならば、ベトナムの豊富な農業資源を活用して農産物の輸出を目指す外資が現われるであろう。外資が技術、資本、マネジメントを持ち込み、輸出農産物を開発する。工業分野が外資の直接投資+輸出で発展するのと同じである。

 輸出セクターでイノベーションが進めば、その動きはやがて伝統セクターにも波及していく。その頃、ベトナム経済がルイス転換点に近づいているであろうから、経済メカニズムを通して、ベトナム農業全体の現代化が進むのではないか。もちろん、まだ現実ではない。これは筆者の仮説である。

(注)中国の農業はベトナム同様、土地は国の所有、農民は使用権のみで、農家請負制、小零細である。しかし、輸出セクターは大農場制になっているケースがある。かって2001年、日本と中国間で農産物貿易摩擦が発生し、中国からの野菜輸入(ネギなど3品目)の急増に対し、日本は史上初めてセーフガード(緊急輸入制限措置)を発動した。輸出産地の山東省ウエイファン市を訪問してみると、中国は低賃金を武器に輸出していたのではなかった。輸出産地は仕組みが伝統的農業とは異なり、大規模な「土地囲い込み」をした企業経営であった。輸出加工会社は村(農家)と契約し、土地利用権を大規模に集約していた。団地式で契約し、大農場方式だ。ロット数が大きいため、灌漑や病虫害対策が著しく低コストで済む。企業経営のメリットを享受し、輸出競争力を高めていた。(拙稿「第10章 農業の発展」渡辺利夫編『図説現代中国』PHP研究所2003年、参照)。
現在のベトナムでは、一部で見られる外資提携の輸出企業は既存の伝統的農家から買い集めるだけであって、イノベーションがない形態が多い。

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