何故アベノミクスは成功する可能性が高いのか

進化する中央銀行

現在、中央銀行のあり方が変わりつつあるように思える。中央銀行における通貨発行の裏付けが変化しつつある。中央銀行のバランスシートは、金本位制では通貨と金、管理通貨制では通貨と国債をバランスさせてきた。しかしながら、ギリシャ危機に見られるように、国債保有に関して疑問が持たれるようになってきている。FRBのバランスシートを見ると、リーマンショック前の資産は、ほとんどが国債であった。リーマンショック以後は、モーゲージ債など市場性証券を多額に組み入れている。また保有国債も償還期限が長く、価格変動の大きな長期債の比重を高めている(例えばFRBのオペレーションツイスト)。これは、中央銀行における歴史的変化とも言えるのではないか。

金から国債へ、国債から(価格変動するリスク資産)市場性証券へ、という資産保有の変化は注目に値する。今は危機対応の対症療法で一時的なものに見えていても、それが定着するという可能性もある。金本位制が廃棄された時も、単に目先の安定を得るためだけの一時的対症療法と考えられていた。当時、金の替わりに何の裏づけもない国債を基に通貨を発行する中央銀行制度が長く続くはずはない、いずれ金本位制に戻ると誰もが考えていたはずである。ニクソンショックによるペーパードル本位制も当時はやはりその場しのぎの対症療法と考えられていた。しかし今になって振り返ると、どちらも新たな通貨制度の始まりであった。今回の変化も同様のものなのかもしれない。

これまでの通貨制度は、誰かが理念的に計画して開発した制度ではなく、市場の必要性に応じて変えられてきたものである。金本位制は、誰もが金に価値があると信じた共同幻想で成り立っていた。国債もまた、徴税権を持つ政府が必ず返済してくれるという信用が裏付けとなってきたが、これが揺らぎ始めている。それでは市場性証券の裏づけは、一体、何であろうか。これは、中央銀行の資産の中に、初めて登場した経済的価値であるといえよう。市場性証券は、将来、明確に予想できるキャッシュフローの現在価値である。金や国債よりも確かな裏付けを持っているとさえ言えるかもしれない。このように、市場性証券を裏付けとした通貨発行のメカニズムが、現在、起こり始めているように思えるが、果たして、新しい変化なのか、それとも一時的なものなのかは現時点ではわからない。しかしながら、新たな通貨メカニズムの導入により、新たな需要創造が必要であることは確かである。需要が急速な生産性の高まりと世界的な供給力の増加に追いついていかなければ、供給過剰で大不況に陥る可能性も高くなってしまう。このように考えるとアメリカは、次世代を考えた経済政策をとりはじめたのかもしれない。アベノミクスにより日銀も世界の潮流に追随せざるを得なくなっている。

(5) 付論・・・日本で逆回転したバラッサ・サムエルソン効果

一物一価が貫徹すれば先進国ほど物価高となり、内外価格差は拡大する

円高が原因となったデフレの進行は、国際経済学上の仮説バラッサ・サムエルソン効果の有効性を示唆していると考えられる。バラッサ・サムエルソン効果とは、国際経済において一物一価の法則が貫徹していく、という原理を確認するものである。さしあたって一物一価が成立するのは貿易財部門(製造業)でありそこでは同一生産性の労働コスト(単位労働コスト)が同一水準に落ち着く。つまり、生産性上昇率の高い国(a)の賃金上昇率は高く、生産性上昇率の低い国(b)の賃金上昇率は低くなる。その場合、国際的な競合のない非貿易財部門(サービス業)の賃金上昇率も、一国内において労働市場の裁定が働くので、(a)国では高く、(b)国では低くなる。ここで問題は、貿易財は資本集約的なので国ごとの生産性上昇率の格差は大きいが、非貿易財(サービス業)は労働集約的であり、どこの国であっても生産性上昇率格差は小さい、ということである。先進国でも新興国でも、例えば床屋さんの生産性には大きな相違はない。となると、生産性に違いはないのに(a)国のサービス業賃金は高く、(b)国のサービス業賃金は安くなる。つまり(a)国は(高い賃金を吸収するために)サービス価格インフレがおき、高インフレとなり(=購買力平価は低下し)、(b)国はサービス価格インフレが起きないために、低インフレとなる(=購買力平価は高くなる)。つまり先進国の高インフレは必然と言える。

円高=デフレ、円安=インフレ、の因果関連

さてバラッサ・サムエルソン効果が、日本の超円高の局面では「全く逆に働いた」ことが想起されるべきである。円高の結果競争力を喪失した日本では⇒日本の貿易財産業での賃金の低下が起き⇒それが日本の非貿易財産業の賃金低下に波及し⇒日本が全般的デフレに陥ったという経路である。為替レートがフレキシブルに動かず円高で固定さ続けたために、デフレ圧力が高まったのである。

よって、逆もまた真なり、円安になれば日本の貿易財産業の賃金は国際水準に比して上昇し、その結果国内での賃上げ圧力が生まれる。そうした貿易財産業での賃上げは、非貿易財産業の賃金上昇に波及する、と言う経路でインフレに至る、ということになる。2月12日安倍首相が企業経営者に対して、円安等による収益向上の一部を賃上げによって労働者に還元するように求めたが、それはまさしくバラッサ・サムエルソン効果を狙ったものと言える。

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