ミャンマー 労働力資源を考える

 一方、労働力人口推計のための控除要因である就学者は、高等教育の就学率が著しく低い。そのため、隣国タイなどに比べ、労働力率が相対的に高まる傾向になる。ミャンマーの就学率は、初等教育90%、中等教育(中学+高校)51%であるが、高校にあたる上級中等教育は粗就学率で38%、高等教育(大学)は15%と急減する。ちなみに、タイの高等教育の粗就学率は48%である(拙稿「ミャンマー 新外資法の成立が就学率を高める」当Webサイト、2012年11月20日掲載参照)。

 筆者の推計では、2020年代央にはミャンマーの労働力人口はタイに接近する。出生率の低下にもかかわらず、当面は老いゆくスピードがタイより緩やかであるからだ。かなり大雑把な前提であるが、仮に高等教育粗就学率を現状並みとし、15~19歳人口から就学者数を控除すると、2025年のミャンマーの労働力人口はIMF(WEO)人口ベースに置き換えると4,770万人、タイは4,830万人である。労働力資源の豊富さでは、ミャンマーはアジア有数である。労働力の供給圧力は将来も続く。

2、労働需要―低い雇用吸収力―

 ミャンマーは、1人当たりGDPが824㌦(2011年)と低く、ASEAN最貧であることに示されるように、経済が未発展である。製造業は縫製業以外に見るべきものがない。ほとんどのアジア諸国は、海外から直接投資を受け入れ、輸出主導型で工業化に成功し、経済発展した。この「対内直接投資+輸出」という東アジア型経済発展メカニズムが、ミャンマーには見られないのである。欧米諸国の経済制裁の影響である。

 主力産業である縫製業の発展過程を見ると、この事情が分かりやすい。先に拙稿「〈ミャンマー産業予測の基礎知識〉繊維貿易は成長産業か」(当Webサイト2012年10月18日掲載、図2参照)に示したように、1990年代、ミャンマーの衣料品輸出は順調に伸び、縫製業は発展した。しかし、欧米消費者の不買運動や、米国のミャンマー産品輸入禁止措置(2003年7月)により、衣料品輸出は激減した。米国市場に輸出できなければ、如何に安価で良質な労働力が豊富に存在していても、直接投資でミャンマーに進出する企業はいない。実際、製造業への対内直接投資はきわめて少ない(表5参照)。

 このように、米国による経済制裁により、ミャンマーは「直接投資+輸出」という東アジア型経済発展のメカニズムを絶たれてきたのである。製造業の極度の未発展の原因はここにある。

表5 ミャンマーの対内直接投資(分野別、認可ベース)(単位:100万㌦)

 一方、伝統的な産業、農林水産業の第1次産業も発展していない。ミャンマーは農業資源、水産資源が豊富であるにもかかわらず、2011年の人口1人当たり農水産品輸出額はマレーシア1057㌦、タイ513㌦、ベトナム161㌦に対し、ミャンマーはわずか29㌦である(World Trade Atlas〈HS01~24〉から筆者計算)。

 このように、製造業も、農水産業も未発達である。当然、労働力に対する需要は弱く、雇用吸収力は低い。一方で、先に見たように、労働力の供給圧力は大きいので、労働市場は需給均衡にはほど遠い不完全就業の状態になる。労働市場は、具体的にはいかなる形で成立しているのであろうか。

◇偽装失業・海外出稼ぎ、無制限労働供給
 ミャンマーはメコン流域随一の外国人労働者の供給国である。タイへの出稼ぎ労働者は250~300万人といわれる。マレーシアにも100万人の出稼ぎがあるといわれる。国内に職場を見つけることが出来ない人たちである。タイへの出稼ぎ者は国境周辺、マレーシアへの出稼ぎ者は中央乾燥地帯の農村出身者が多いといわれる。労働力の海外流出が需給不均衡の一つの解決策になっている。

 ただし、高学歴者も、シンガポールやブルネイなどに流出している。海外留学組も、帰国しない人たちが多い。母国には機会が少ないからである。

 もう一つは、不完全就業者の群れだ。ミャンマーの1人当たりGDPは824㌦と、ASEAN最貧であることに示唆されるように、「半失業」である。J.ロビンソンのいう「偽装失業」(disguised unemployment)だ。都市部の露店商や農村部では、仕事に就いていても極めて低賃金の人達がいる。完全な失業者ではないが、半分失業者と変わらないような生活を余儀なくしている。

 近代的産業部門が拡大すれば、この階層からいくらでも労働力が供給されよう。つまり、近代的産業部門のための「労働予備軍」である。海外への出稼ぎ労働者も同じく労働予備軍だ。労働の供給源は至る所にある。ミャンマーの現状は「無制限的労働供給」(W.A.ルイス)と言ってよい。

 ただし、ヤンゴン市は案外、豊かになっている。消費活動も盛んだ。アルバイトや副業などの本職以外の収入機会が多いからであろう。中国流にいえば「灰色収入」だ(統計できない収入)。また、中間所得層も形成され、豊かになっている。しかし、ヤンゴンと地方の所得格差は大きい。また、ヤンゴン市内でも所得格差は大きい。

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