新たな発展段階入りが見えてきた米国経済 ~ 世界随一の米国経済の中長期展開力 ~

第三章 利子率と利潤率の乖離=空前のリスクプレミアム

恒常化するグリーンスパンの「謎」

さて、潤沢な資本・高利益と停滞する需要との極端なコントラスト、この矛盾の背景に何があるのであろうか。金融面においては、企業の利潤率と利子率の乖離によって説明することができる。本来であれば、利潤と利子は連動して動くものである。しかしながら、この10数年間、利潤率が上昇傾向にある一方で、利子率は低下し続けている。そのため、その乖離幅は拡大する一方である。企業が儲かって資金需要があれば、金利は上昇するはずだが、現状は、インフレになることもなく低金利が続いている。この資金余剰によりサブプライムローンが生み出されて、バブル形成され、やがて崩壊した。この一連の過程でも一貫して利潤率は上昇トレンドにあり、利子率は低下し乖離は拡大したまま、いや更に拡大している。図表24は米国の企業利潤率(営業利益/有形固定資産)と利子率(実質長期金利)の推移を見たものである。両者のギャップは1990年代以降、ITバブル崩壊、サブプライムバブル崩壊とリーマンショック等の危機に際して一旦は縮小するものの、危機が収束すると更に拡大している事がうかがわれる。図表25の名目GDP成長率と長期金利(10年国債)の推移を見ても、同様の乖離が検証できる。2000年頃まで両者は連動しており、また長期金利が名目GDP成長率を上回る状況が続いていた。しかし2000年以降は、GDP成長率が長期金利を大きく上回るような状態が定着している。2005年当時、グリーンスパン前FRB議長が、この状態を「謎(conundrum)である」と評して話題となった。グリーンスパンは、短期金利を上昇させてバブルやインフレを抑制するという金融政策をとったが、連動するはずの長期金利が上昇せず、金融引き締めがしり抜け状態になっていたのである。その後、リーマンショックにより、企業利潤が急激に悪化、GDPもマイナス成長となって、この乖離現象が終わったかに見えた。そのため、「謎」の原因はグリーンスパンの長期にわたる金融緩和が原因で長期金利が上昇せず、それがバブルを助長したといわれてきた。しかし、ここにきて、再び、名目GDP成長率よりも長期金利がかなり低いという乖離現象が生じている。つまり、企業の利潤率と利子率の乖離が構造的に定着しているということである。

乖離するROEと長期金利

図表26によりROEと長期金利の推移を見てもそれがわかる。ROEと10年国債利回りは連動してきたが、2009年以降、ROEが上昇しているにもかかわらず長期金利は低下、乖離は拡大し続けている。

投資コストの激減と過剰償却が資金余剰の一因

このようにグリーンスパンの「謎」はほぼ10年にわたって継続しており、その原因は未だに解明されていないのである。潤沢な資金が生み出され、それが金利の傾向的低下をもたらしている事は明白であるが、その原因が何であるのかはわからないままとなっている。これに関して、東京大学の青木浩介准教授は、「貯蓄を運用するに至る十分な資産がないことに問題がある」(日本経済新聞、経済教室2012年1月5日)と指摘している。長期的な金融緩和による金余りに問題があるのではなく、運用対象がないことに問題があるとした。そして、金融市場を効率的に機能させ、有効な投資対象に配分させることが最も重要であると主張している。筆者は企業の資金余剰は、グローバリゼーションとインターネット革命による劇的なビジネスコストの低下によってもたらされたものである可能性が高いと考える。また、世界中の企業において、過剰な償却が行われていることも一因と言える。日米など先進国の企業が海外で新規の設備投資を行ったり、IT革命で進んだ技術でシステム投資を行えば大幅なコスト削減となるため、現有設備能力の再取得コストは著しく低下する。しかし企業は過去の高額投資残高に対して償却行うので、それは要投資額に対して常に過剰となってしまう。図表12に見た企業の資本余剰(フリーキャッシュフローの著しい増大)は企業のアニマルスピリットが萎えて投資に消極的であるということ以上に、過剰償却と新規設備投資必要額の低下によってもたらされていると考えられる。同様の現象は先進国に共通している。日本においても、企業では巨額のフリーキャッシュフロー余剰が続いている。こうした利潤率と利子率の乖離は、長期的には解消されるはずであるが、今後5年から10年程度という単位で考えると、この傾向は継続し世界の経済と金融市場を特徴付けるものとなる可能性が高い。

資金余剰を需要創造に繋げる道

このような環境の下で、どのようにすれば雇用を回復させ、景気を拡大基調に乗せることが出来るのであろうか。過剰な資本が問題であるならば、正しい使い手に配分することが必要となる。そうすれば新たな需要をもたらすはずである。その対応策が、主要国の経済当局者に求められている。米国の中央銀行は、この余剰資本を金融経済や実体経済において、リスクテイクを促進する方向に誘導しようとしている。金融経済ではリスク資産への投資を推進することでリスクプレミアムを引き下げるという戦略である。また実体経済では目先の消費だけではなく、より長期の消費や投資に誘導しようとしている。つまり、資金余剰が株価上昇をもたらし、その資産効果で経済の好循環を誘導するという明確な戦略をとっている。日本は曖昧なままである。資金余剰で過去最低の金利水準でありながら、増税による財政再建を目指しており、更に需要を抑制する政策となっている。需要を喚起しようとする積極的な姿勢を示している米国に対して、日本は財政再建という消極的な姿勢を示しており、その後の経済成長率や株価のパフォーマンスへも大きく影響してくるといえよう。

選択的インフレ=生産性上昇率格差インフレが鍵に

なお企業の資本余剰を需要に結びつける過程において、選択的インフレ、生産性上昇率格差インフレと言われるものが、大きな役割を果たしているが、日本はデフレに陥ったことによって、企業の余剰が需要創造に結び付く経路を失った。それに対して米国は適度のインフレの継続により、需要創造のチャンネルが維持されているということも、指摘しておきたい(後述)。

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