新たな発展段階入りが見えてきた米国経済 ~ 世界随一の米国経済の中長期展開力 ~

第二章 米国経済の展望を混乱させる矛盾点と推進力

空前の企業利益vs.戦後最悪の雇用

それでは、短期的な観点から見た米国経済はどうであろうか。日本の産業界全体としては、最悪の事態はまだ終わっていないというのがコンセンサスのようであるが、株式市場では今後を楽観視する動きを見せている。現在の米国経済は、ジキルとハイドのように極めて異なる側面を持っており、このことが解釈を混乱させている。2つの際立った矛盾点があげられる。まず第一は、史上最高の企業利益が1年以上も続いている一方(図表5)で、雇用の回復が進んでいないことである。リーマンショックによる景気後退で、戦後最大となる880万人の雇用喪失が起こり、その後の回復力は非常に弱いものとなっている(図表6参照)。過去最高の企業利益と戦後最悪の雇用状態が同時に存在しているため、いずれの側面を重視するかによって見方が変わってくることになる。

労働分配率低下を推進する生産性革命

その背景に労働分配率の大幅な低下がある。1960年以降で見ると、過去最低の水準にまで低下している(図表7)。つまり、レイオフや給与の抑制など、弱者である労働者に犠牲を強いることで、企業は過去最高利益を計上していると見られてしまうのである。そのことが市場経済の問題点でもあり、米国経済が病んでいると言われる要因となっているが、この議論は誤解である。労働コストの削減によって企業利益が増加するのは、事の一面にしかすぎない。最も重要な側面は、生産性の上昇である。実際、製造業の生産性を見ると、リーマンショック時の落ち込みから急激に回復していることがわかる(図表8)。

その他の産業においても、かつて無いような生産性の上昇が起こっている。グローバリゼーションやインターネットなどのIT革命が日進月歩の勢いで続いており、生産性の向上を支えている。現在、世界には第7番目の大陸としてネットの世界があるといわれている。メインフレームコンピュータによるオンライン集中処理の時代、パソコン、サーバーによる分散処理、LANの時代を経て、今クラウドコンピューティングとそれに連携する諸インテリジェントターミナル(スマートフォン、タブレット、パソコンなど)の時代となった。そこには、まったく別のコミュニティが出来上がっており、「アラブの春」のような民主化運動の背景で大きな役割を果たしてもいる。世界中のあらゆる情報や経済分析に必要なデータやソフトも、インターネットで瞬時に取得でき、まだまだ進化を続けている。これらが、かつて無い生産性革命と劇的なビジネスモデルの進化を引き起こしているといえる。企業は常に、最新鋭の技術環境と装置を導入してモデルを見直し、グローバルスケールでアロケーションを変えていかなければならない。このような技術変化は世界共通のものであるが、米国において特に失業者が多いと言うことは、米国経済が非常に弾力的で新しいビジネス環境に迅速に対応しているからである。前述のハイテク企業の世代交代は、そうした技術環境の転換と符合している。

主要国の失業率の変化とGDP成長率の推移を見ると、景気が後退した2009年の米国のGDP成長率はマイナス2.6%であったが、失業率は5.8%から9.3%へと3.5%上昇した。一方、日本のGDP成長率はマイナス5.3%と大きく落ち込んだが、失業率は4.0%から5.1%へと1.1%の上昇にとどまっている。欧州のGDP成長率もマイナス4.1%で、失業率は7.5%から9.4%と1.9%の上昇でしかなかった(図表9)。つまり、日本や欧州では、生産の落ち込みに対して雇用削減が追いつかない状態にある。したがって、米国経済における雇用悪化は、生産性の向上から派生したものであり、今後は良い方向へ向かうと考えている。リーマンショック後も同様の見方をしていたが、現在もそれは変わっていない。

低需要vs.高貯蓄

さて、高企業利益vs.低雇用の外に米国経済が抱えるもうひとつの矛盾点は、戦後最低の需要に対して過去最高の貯蓄が存在していることである。図表10によって米国GDPに対する裁量的支出(耐久消費財+民間投資(住宅+非住宅))の割合を見ると、これまでは、景気が良ければ上昇し、悪ければ落ち込むという状態を繰り返してきた。この比率は、リーマンショック前のピーク時で25%超であったが、景気後退により戦後最低の水準である19%にまで低下している。リーマンショック以前は過剰消費の状態であったが、リーマンショック後は、極めて抑制された状況にあるといえる。裁量的支出の落ち込みの主な要因は、住宅投資である。住宅投資の対GDP比率は、リーマンショック以前のピーク時で6%あったが、現在は2%台にまで落ち込んでいる。現在の住宅販売数は30万戸程度で、ピークであったリーマンショック前の140万戸弱の水準から大きく下落したままである。自動車需要も住宅に比べるとやや回復傾向にあるものの、販売台数は1,400万台程度で、過去の水準から見ても低いままである。 (図表11参照)。

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