S&P 500月例レポート(2017年9月配信)

S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

S&P 500指数:例年薄商いの8月も相場は崩れず。9月は一転、ワシントンから強い向かい風が吹く可能性

 トランプ大統領が8月は休暇を取るか、多少はおとなしくしているだろうと考えていたとしたら、それは全くの見当違いに終わりました。大統領は相変わらず遠慮のない行動や発言を繰り返し、もちろんツイートし続けています。

 Twitter(TWTR)は8月に5.1%上昇しましたが、トランプ氏が勝利した昨年の大統領選時点と比較すると株価は8.0%も低い水準にとどまっています。また、SNSに載せる写真をSnap(撮影)する前に(SNAP、2017年4月のIPO価格は17ドル。現在の株価は14.65ドル)、ソーシャルメディア企業(Twitter)の株価はすでにIPO価格を29.3%下回る水準まで値下がりしました(現在の株価は16.91ドル)。2013年11月7日の上場時のTwitterのIPO価格は26ドル、その日に50ドルまで上昇するほどの人気だったのですが。

 おそらくTwitterでも夕食のために食材宅配サービスBlue Apron(APRN、2017年6月のIPO価格は10ドル、現在の株価は5.23ドル)を頼み、Uber(以前、同社は企業価値を620億ドルと試算しており、18-36カ月以内のIPOを目指しています)を利用して配達してもらうぐらいのことはできるでしょう。まあ、これも仕方のないことです。IPOが20年前とは様変わりしたのですから。意外なことですが、20年前は赤字決算でも問題はありませんでした。現在は、業績は黒字化していますが、プレミアム分を正当化するには利益があまりにも少ないのです。

 トランプ大統領を評価していたかどうかは、政治に対する考え方次第でした。アルコールを手にした時の私にとっては、支持しようが異を唱えようが、問題には何ら影響しない、白紙委任型の政治のように思えました。単なる政治に過ぎないのですから。とはいえ、私が株の取引を行う場合には(少なくともコンプライアンス上で認められている限りにおいてですが)、政治が重要とは思えません。重要なのはファンダメンタルズです。

 ウォール街では政治を気にかけ、意見も交わし、呆れてはいるものの、株式の売買は続いています。ウォール街がワシントンの動きに無関心となり、事実だけに注目しているのは、激しい言葉の応酬に慣れたからだということが広く受け入れられるようになっています。実際問題として、いくつかの政策変更が行われましたが、その大半は議会で立法化されたものではなく、大統領令によるものです。ワシントンでは混迷が続いていますが、株式市場は独自の道を進み、緩やかな一進一退を繰り返しながら新高値を更新しています。

 経済、低水準の在庫に後押しされた住宅市場、雇用(賃金はそれほどでもない)、そしてGDPの改善基調は続いており、インフレと金利は低水準にあります。実際のところインフレと金利は低下しており、ジャクソンホール会議で欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁、日銀の黒田総裁、そして連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長は実際に何を語ったのか、そして彼らの本音は何だったのかを知りたいものです。株価収益率(PER)は引き続き高水準を維持しています。現に2017年第2四半期の利益は事前の予想を上回り、これまでの最高だった2014年第3四半期をしのぐ過去最高を更新し、第3四半期も(第2四半期を7.6%上回る)過去最高に達するとの予想が大勢を占めています。売上高の改善(前年比同期比5.7%増)も記録更新をうかがう勢いです(ただし、小売セクターは不調)。

 例年薄商いとなる8月相場にとって特筆すべきことは、海外関係では数多くの悪材料が続いたにもかかわらず、米国株式市場は0.05%とわずかながら上昇したことです。考えてもみてください。「核弾頭」、「戦争」、「デフォルト」といった文言が頻繁に飛び交い、テロ攻撃が「容認可能な」もののようになってしまった中で、株式市場は最高値にあと0.37%という水準を維持したのです。こうした相場上昇の背景には、好調なファンダメンタルズと政治に対する無関心さがありました。

 しかし両者とも必ず変化するものです。今現在は何の問題もありませんが、米議会が5日から再開される9月は警戒が必要です。債務上限問題(現行上限は20兆ドル、現時点での債務残高は19.98兆ドル)への対応、10月から始まる2018会計年度予算の審議(ここ数年はつなぎ予算の成立が常態化)、そしてウォール街が切望する税制改革、これら全ての政治課題がまさに現実問題となり、極めて早急に対処すべき事態となる可能性があります。にもかかわらず、誰も手仕舞う動きを見せてはいません(とはいえ、相場下落に備える保険的手段には買いが集まっています)。

 バージニア州シャーロッツビルで発生した白人至上主義団体の集会は、反対派の一人が死亡する暴動事件に発展し、混乱は全米に広がって、メディアで大きく取り上げられました。この事件に対するトランプ大統領の声明も、多くの国民にとって不満が募る内容でした。大統領の発言を受け、Merck(MRK)の最高経営責任者(CEO)であるフレイジャー氏は「不寛容に抗議する」として大統領助言組織である製造業評議会のメンバーを辞任しました。Intel(INTC)のCEOやその他の企業幹部もこうした動きに追随しました。これに対してトランプ大統領は、製造業評議会と戦略・政策フォーラムを解散しました。メンバーが大統領に対し辞任の意向を表明したからだとメディアは伝えています。トランプ大統領はまた、国家インフラ諮問委員会の設置計画も断念しました。

 さらに8月18日に大統領の主席戦略官であったスティーブ・バノン氏も政権を去りましたが(トランプ政権下では5週間でバノン氏を含め4人が重要ポストから去ったことになります)、この件に関しては解任であることが強調されました。この解任劇についての報道が大々的になされた結果、インフラ整備計画の準備作業は脇に押しやられ、所得税改革に向けた超党派での協力の動きが足踏みすることになり、政権内でのコミュニケーションとモラルを深刻に懸念する声が高まりました。発効から23年となる北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しに向けた再交渉も始まりましたが、ほとんど進展はありませんでした(9月に本格化する可能性も)。

 テキサス州湾岸部を襲ったハリケーン「ハービー」による被害は拡大しています。保険会社は当初、保険対象損害額を100-200億ドルと見積もっていましたが、被害総額は750億ドルと推定されています。またテキサス州は復興には1,250億ドルが必要だとしています。地上の調査員と上空からのドローンによる調査を通じて、より正確な被害額の算定が9月上旬から行われるでしょう。短期的な供給不足が生じたため、精製エネルギー価格が上昇しました。また、ガソリン価格も短期的に全米規模の値上がりが予想されます。

 今後に目を向けると、米国政府の債務が目下19兆9,800億ドルと、間もなく20兆ドルの上限に達するため、議会は上限引き上げの審議を開始しました。トランプ大統領はメキシコとの国境の壁建設予算が来年度の歳出法案に盛り込まれない場合、債務上限の引き上げを拒否すると述べています。この交渉が決裂すれば、政府機関が閉鎖される可能性があります。9月の債務問題のすぐ後には、10月に始まる2018年度予算の問題が待っていますが、当座しのぎの対応は最近では珍しくありません。さらに、市場にとって重要な所得税改革の問題がその後に控えており、政治的な発言が活発化すると見られています(議会の状況を考えれば、実際に税制改革法案をまとめるのは難しいでしょう)。結論として、今後は市場が注意を払うべき(および材料視すべき)政治的な問題が多くなるかもしれません。

ヤフーブックマーク Googleブックマーク はてなブックマーク ツィートする シェアする  ライブドアブックマーク ディスカス

キーワード

 

連記事

 
 
 

新記事

 
 
みんかぶマガジン> 全ての記事> ETF/REIT> S&P 500月例レポート(2017年9月配信)