資金調達の工夫~ライツ・オファリングの活用

・一方で、株価が行使価額以下で推移すると、権利行使が進まず想定した資金調達ができないことになる。それでもADWはあるべき姿を求めて、株主、投資家にファイナンスを求めていくことにした。

・具体的には、どんな内容なのか。6月29日の株主総会で承認が得られれば、7月12日の株主に対して1:1の割合で新株予約権を無償割当する。4月25日の取締役会で今回のファイナンスを決議したが、その前日の株価39円が行使価額である。但し、株主総会の前日の株価が39円より下がった場合は、その前日の株価を行使価額とする。

・以下は39円を行使価額として話を進める。新株予約権の総数は約223百万個である。39円×223百万個=約87億円に相当する。権利行使の期間は7月13日~9月12日の2カ月間である。

・この期間でどのくらいの権利行使比率となるか。100%なら発行費用(1.6億円)を差し引いて、85億円の調達となる。50%なら発行費用(1.2億円)を差し引いて、42億円の調達となる。もし、株価が39円より下の水準でずっと推移するならば、権利行使は0%となって、資金調達もゼロとなるかもしれない。

・そこで、今回のファイナンスでどんな投資をしたいのかをよく吟味しておく必要がある。会社サイドの説明によると、目的は2つある。1つは、収益不動産残高の戦略的拡充で、コア事業の基盤を強化する。もう1つは、不動産テック関連への投資を推進し、不動産特定共同事業法を活用した新しい不動産流通マーケットのプラットフォームを創っていくことである。

・行使比率50%のケースでは、42億円のファイナンスのうち、40億円を収益不動産の残高拡充へ、2億円を不動産テックに使う予定である。40億円を利用した収益不動産の残高拡大に伴う賃料収入は、年間2億円(税引ベース)が見込め、このROEは5.0%(2÷40)に相当する。

・一方、40億円の自己資金が用意できると、79億円の銀行借入が可能となる。合計で119億円の新規不動産取得が見込める。この収益不動産をバリューアップして、その売却益を逐次実現していく。2年で1回転とすると、年間60億円の売却で、そこでの利益(税引ベース)も1.0~2.0億円が想定できる。全体でROEは7~10%となるので、投資家の期待に応えることができよう。

・ADWのライツ・オファリングは今回で3回目である。過去を振り返ると、1回目は2012年10月に実施し(ノンコミットメント型、7400円の株価に対して行使価額4000円、ディスカウント率45.9%、権利行使比率92.8%)、約5億円を調達した。5億円あれば銀行から25億円が借りられたので、30億円のビジネス拡大ができた。

・2回目は2013年10月に実施し(コミットメント型、70円の株価に対して行使価格20円、ディスカウント率71.4%、権利行使比率100%)、約22億円を調達した。これによって収益不動産残高は、2013年9月末の64億円から2017年3月末には200億円へ拡大した。

・2012年9月末で時価総額10億円の会社が、2回のライツ・オファリングを活かして収益基盤を強化し、時価総額100億円前後の会社へ事業を拡大した。これはライツ・オファリングなくしてはできないものであった。

・今回のファイナンスでは、どのくらいの権利行使比率になるか。1回目は92.8%、2回目は100%であったが、今回はファイナンスの公平性、平等性を考慮して、ノンコミットメント型、日本初の行使価額ノンディスカウント型を選択している。

・最大の大株主である田中社長(持株比率19.7%)は手持ち資金から数千万円分は権利行使を行うが、それは全行使可能額の一部にすぎない。持株比率は下がってよいという考え方をとる意向である。

・行使比率50%で42億円のファイナンス、25%で21億円のファイナンスとなるが、20億円あれば60億円の収益不動産の残高が積み上げられる。40億円あれば119億円が可能となる。会社サイドとしては、1)日本企業として先行し、収益性の高い米国収益不動産ビジネスの拡大、2)フローの回転よりもストックを重視した収益不動産残高の積み上げを重視している。これによって、収益の安定化が進むので、事業基盤は強化される。

・また、不動産テックでは、不動産関連の小口化投資商品の流通プラットフォームを本格稼働させる。子会社スマートマネー・インベストメントを軸に地位の確立を目指している。

・現在株主は1.2万人強と多い。100株で3900円、1000株で3.9万円、1万株で39万円の払い込みとなる。1万株以下の株主が大半を占める。多くの少数株主にとって、投資可能な金額の範囲であろう。前2017年3月期の配当は年間0.55円である。1000株として550円、3.9万円に対しては1.4%の配当利回りである。

・これに対して、今2017年9月末の中間配当で、1.65円の感謝配当を行う予定である。株主として3回のライツ・オファリングに協力し、会社を応援してくれたことに対する株主還元である。それを感謝配当と名付けた。いわゆる株主優待ではなく、全株主に対する平等の株主還元である。1.65円は4.2%の配当利回りに相当する。この配当利回りは高いので、権利行使する価値はあろう。

・中間配当1.65円に対して、期末配当は決まっていない。ファイナンスの状況をみて、検討することになろう。もし従来通りの0.35円とすると、通期の配当は2.0円である。権利行使後の株価が40円とすると配当利回りは5%となる。この配当利回りが想定されると、株価は50円程度に値上がりしてもよい。なぜなら、株価50円でも4%の利回りが見込めるからである。

・中期の事業展開も十分期待できるので、株主や投資家の理解が得られるなら、今回のファイナンスはうまくいくものとみられる。当社の本業のなかでは、個人富裕層への米国ビジネスのユニークさと、不動産テックのプラットフォームへの展開の可能性、に大いに注目したい。同時に、今回のファイナンスが既存株主を大事にした成長資金の調達である、という点も高く評価したい。
 

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