トランプ氏の「保護主義」における二つの類型

●米中摩擦で中国の競争力を削ぐ

 それではナバロ氏はどのような対策を提案するのか。エコノミスト誌は「中国を適切な防衛的措置の対象にするべき」(Subject to be appropriate defensive measures )との主張を伝えている。(1月21日)。それはどのようなものか。中国からの輸入品に対して全面的に関税をかけるという脅しの下に、国際ルールからかい離した中国の通商慣行(不法な輸出補助金、通貨操作、知的財産の窃盗、強制的技術移転、多岐にわたる非関税障壁など)を是正させる、というものになるだろう。それはあたかも、1980年代以降の日米貿易摩擦の過程で、スーパー301条の適用などの脅しの下に、日米構造協議を設け日本の譲歩と国内改革を求めた手法とよく似たものになるだろう。それは全くマクロの話ではなく2国間の話となる。通商代表部(USTR)代表に任命されたロバート・ライトハイザー氏はレーガン政権時副通商代表をつとめ、半導体、自動車、鉄鋼などの貿易摩擦をリードした当事者であり、トランプ政権が日米摩擦の経験・教訓を対中摩擦に生かそうとする狙いが如実である。

 とは言え、2国間の通商交渉は、マクロの貿易収支には影響しない。1980年代からの日米貿易交渉で米国の対日赤字は大きく減少したが、米国の経常赤字は対中・対ドイツ・対韓国などで大きく増加し、経常収支/GDP比率は2006年にかけてむしろ上昇した。今後展開される対中貿易摩擦が功を奏して中国の不公正通商慣行が是正されたとすれば、日本がそうであったように中国の産業競争力は低下し、米国の対中貿易赤字は減少するかもしれない。しかしそれは、米国の赤字自体の減少をもたらさず、米国の対中赤字が他国に移転するだけとなるのではないか(それがトランプ政権の狙いでもあるのだが)。中国の経済活力は大きく損なわれ、競争力を失った後、中国の貿易黒字は激減し、長期的には人民元は大きく下落するだろう。5年後か10年後か15年後か、いずれ到来するドル高・人民元安は、米中経済力格差を絶望的なまでに拡大させる決定的鍵になるだろう。ドルが大幅に上昇し、人民元が顕著に下落すれば、米中経済逆転は予測可能な将来において全く実現せず、懸念される覇権の激突は未然に回避されることになる。

 トランプ大統領とピーター・ナバロ国家通商会議議長の「保護主義」的対応が、以上のような中国封じ込めという地政学的狙いを持っているとすれば(明らかに持っている!)これは保護主義とは似て非なるものである、と言うべきであろう。
 
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