ショートターミズムをいかに乗り越えるか~R&D投資がエンゲージメントの要

・企業のショートターミズム(短期主義)、投資家のショートターミズム、どちらが先か。鶏と卵ではないが、どちらも課題を抱えている。1980年代の後半、米国の製造業の競争力が低下し、日本に負けていることが問題視された。その後、米国では敵対的M&Aが頻繁に行われるようになり、目先の収益を嵩上げしておかないと、ハゲタカ投資家に狙われるということも1つの誘因となった。

・一方、日本はかつて長期的経営を自認しており、銀行のメインバンクによるガバナンスが一定の効果を有していた。関係依存型の取引形態が長期的経営の仕組みとして機能したともいえる。しかし、日本は失われた20年でかなり競争力を失い、米国はIT産業を軸に大きく復活してきた。その後のリーマンショックは再び世界に大きな打撃を与え、異常ともいえる金融緩和の中で先行きが読めなくなってきた。

・先が見えなければ、長期的経営などできない。目先の手を打って、いかに生き残っていくかに鎬を削ることになってしまう。中長期といっても、まずは四半期の利益確保である。ストックオプションを導入して、中長期の業績と報酬を結びつけるといっても、それで十分とはいえないという見方も有力である。

・投資家は、企業の中長期経営には信頼がおけないという。そこで、まずは足元をみようとする。皆が足元をみると、その情報の動きに一喜一憂することで株価が動く。そうすると、短期の株価変動を泳いで、上手く稼ごうという短期投資家が出てくる。投資家は多様でよいが、短期筋が幅を利かせるようになると、経営者の行動もそれに引きずられ、ひ弱な経営者はこうした投資家のニーズに合わせようとする。それが自らの地位保全と身入りにも直結するからである。

・短期筋の投資家ニーズに迎合したアナリストは、早耳情報の獲得に躍起となった。不祥事も発生した。アクティブ運用のインベストメントチェーンが変質したともいえる。こうしたショートターミズムの弊害を抜け出すために、日本では早耳による業績取材を禁止することになった。

・これが結構なインパクトをもたらしている。では、次に四半期決算の開示を止めるという議論にまで行くのだろうか。企業によっては、月次情報の開示をやめるところが出ている。しかし、適時開示に躊躇するようになると、思惑が走り、インサイダー情報が広がることにもなりかねない。それでは藪蛇である。

・ショートターミズムから逃れる1つの方策は、上場しないことであり、非上場にすることである。日本で長続きする企業には、ファミリービジネスに多く、そこには別の課題があるにしても、目先の動きに囚われる必要はない。

・一方で、ショートターミズムは本当にダメなのか。今のIT産業をみれば、アジャイルはキーワードである。どの産業でも、変化へ対応には俊敏さが求められる。短期的にビシバシ活動しなければ、長期的にサバイブする基盤は作れそうにない。

・では、どうするか。投資家として最も重要なことは、企業のR&D投資について徹底的に議論することであろう。その時、R&D(研究開発)投資の概念(コンセプト)は広げる必要があり、従来の見方とはかなり異なるものである。

・例えば、小売企業や外食企業の経営者とR&D投資について議論してみよう。いずれも人手不足が顕在化している。パートやアルバイトの賃金は上がっている。安くて優秀な人材をかつてのようには使えない。もし時給2000円になるとそのビジネスがやっていけないとすれば、ビジネスモデルを抜本的に変える必要がある。そのためR&D投資とは何か。人材投資、新しいIT投資、物流のオープンイノベーション、マーチャンダイジングのイノベーションなどが問われる。

・金融や不動産におけるR&D投資とは何だろうか。そもそもこれまでやってきたのだろうか。新しい人材投資は不可欠である。フィンテックへの先行投資は、グローバルな視野で必要である。その時R&D投資は、有形資産ではなく無形資産(インタンジブルアセット)となるべきものであろう。

・R&D投資は、狙いをつけたとしても無駄や失敗はつきものである。実験による検証が必要である。うまく成功したとして、その仕組みやコンテンツはサステナブルであろうか。まさにイノベーションの連鎖が求められる。もしR&D投資が十分でないとすると、これまでの伝統的な仕組みが根本から崩されていくかもしれない。

・日本が得意としたモノづくりの産業はいかがであろうか。R&Dを狭い意味の技術開発と捉えているとすれば十分でない。技術開発に先行しても、事業化で遅れをとってしまったという事例は、この20年、数多くみられる。R&Dは技術開発だけではない。新しいビジネスモデルのプロトタイプ作りである。それに先行するは十分なキャッシュ・フローが前提であり、低い収益力ではR&Dの効率を追求しても負けてしまう恐れがある。

・しかも、R&D拠点は、もはや日本中心ではやっていけない。グローバルに3拠点、5拠点を構える日本企業も出てきている。そこでは、R&D投資のグローバルマネジメントが求められる。さらに、新しいタネをいち早く事業化に結びつける実行力が問われる。既存事業の強化に活かすことも必須である。その時、既存の組織に縛られずに、自らトランスフォームできていくだろうか。

・本業が追い込まれてくると、R&D投資への配分も怪しくなる。最初に削られるのが、R&D投資かもしれない。それでは次への展開力を失い、典型的な追い込まれ型ショートターミズムに陥ってしまう。

・対話(エンゲージメント)において、中期計画の数字は大事であるが、それよりもR&D投資の中身について議論したい。その時、イノベーションへの取り組みが、場当たり型や掛け声先行型ではなく、忍耐遂行型、実行継続型になっているかに注目したい。

・投資家やアナリストは、R&D投資の中身について、会社の秘密を知りたいわけではない。開示できる内容をベースに、イノベーションのプロセスを共有したいのである。この持続性こそショートターミズムを克服する最も有力な戦略であろう。
 

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