アナリストがやってよいこと、やってはならないこと

・では、何が新しいか。1)短期業績に関する早耳取材はやるな、2)未公開決算情報の取材はやるな、3)レポートに書いた内容以外のことは選択的に伝達するな、4)投資判断に影響する情報は重要な情報でなくても選択的に伝達するな、5)レポートにない長期分析評価を選択的に伝達するな、ということになる。

・その考え方は分かるが、これではアナリストも企業のIRサイドも委縮してしまい、円滑な対話が成り立たない可能性が高い。では、企業のIRサイドはどうすればよいか。

・1つは、セルサイドが何を知りたがっているかをよく咀嚼して、議論の材料については何ら制約をかけずに会話することである。過度に未公開情報にこだわると、マネジメント、イノベーション、ESG、パフォーマンスのリスクマネジメントについて、対話ができなくなってしまう。我々は、未公開情報がほしいのではない。将来の企業価値創造に資する材料を一緒に議論して、認識を深めたいのである。
 
・2つには、短期の定量データについてフライングしてはならないが、実績のデータの解釈については定性的な議論に乗ることである。我々は早耳情報でフロントランニングしたいではない。データや情報の意味づけを議論したいのである。

・そして、3つ目として、中長期の展開について、セルサイドは何を疑問に思っているかを問い、そのシナリオの蓋然性について議論することである。将来は分からないが、ビジョンや中期計画がある。経営者の思いと戦略の実行可能性については、たえず議論したいのである。

・また、機関投資家に属するバイサイドアナリストに対しても、当然セルサイドと同じスタンスで臨むべきである。ラージ、スモール、ワンオンワンなど、ミーティングの形式も心配しなくてよい。実効ある対話ができるメンバーを、実績をベースに選んでいけばよい。その時、新しいアナリストやファンドマネジャーを排除しないように、チャンスを工夫してほしい。
 
・今回のガイドラインを踏まえて、考慮しておくことが2つある。1つは、セルサイドはレポートを同時に、平等に発行すべきであるといっても、アナリストレポートはその証券会社が顧客と認める機関投資家にしか届かない。顧客でない機関投資家に、アナリストレポートはデリバリーされない。まして、個人投資家がレポートにアクセスすることは一層難しい。どこまでが平等で同時なのか。広義にみるとなかなか悩ましい。
 
・もう1つは、今回の案は協会員向けであるから、例えば、日本証券業協会の協会員ではない筆者(独立リサーチハウス)は、このルールを守らなくてよいのか。そんなことはない。ルールの普遍性と妥当性を踏まえて、守るべきである。
 
・わが社(日本ベル投資研究所)では、インサイダー情報は取得しないし、万が一取得した場合、レポートは発行しない。プレビュー取材は、そもそもやってこなかった。情報提供はレポートの発行を機に同時に行っており、個別の投資家にフロントランニングを行うことは、会社として禁止しており行っていない。

・問題は、今期の決算予想情報について、実績の四半期を議論するということは暗黙に、会社公表の今期予想について議論することになりかねない。この時どうするか。大事なことは、今期の決算予想数字ではなく、実績のファクトが持つ定性的な意味についてよく議論することであろう。

・アナリストは常に中長期にフォーカスしていく。これは本質である。一方で、足元を正しく把握せずして、将来が分かるのか、という問いも的を射ている。しかし、アナリストは、四半期や今期業績に関する数字の当てっこゲームをやっているわけでない。短期業績予想の取材やデリバリーの禁止というルールにとらわれて、本来あるべきアナリストの役割を低下させることのないように活動したいと思う。
 

日本ベル投資研究所の過去レポートはこちらから

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