歴史的金利低下の下での米株史上最高値の謎を解く

歴史的金利低下の下での米株史上最高値の謎を解く
~米国は日欧が陥った「流動性の罠」を回避できる~

 空前の世界的歴史的長期金利の低下が進行している。今まで経験したことのない新事態であり、人々を不安にさせてきた。それは昨年夏以降の世界株安と同時に進行してきたわけで、「リーマンショック級の危機が到来する」という悲観論の根拠であった。しかし、今米国株式が史上最高値を更新すると言う、新たな事実が起こった。これをどう解釈するべきだろうか。武者リサーチは悲観論の根拠が根底的に否定される可能性が高まったと考える。

(1) 世界的金利低下の下での米国株史上最高値更新

長期金利低下を柱とする悲観の論理
 図表1に見るように、世界的歴史的長期金利の低下が進行している。英ポンド金利の急低下により先進国でまともな金利がついているのは米国だけとなった。この金利低下は暗い将来の予兆であると言うものが、市場では多数を占める意見であった。そして悲観論の根拠とされる4要因はいずれも説得力を持っていた。①資金需要が乏しいこと→人々は悲観的になりリスクを取ろうとしない、②過剰な中銀の金融緩和→マネーの過大供給と言う間違った政策の結果さらに金利が下げられている、③世界的に生産性上昇率が低下している、④世界的金融不安・株価下落と共振、という4要因である。
 
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悲観論の論理矛盾が見えてきた
 しかしそれにしては奇妙なことに、米国株価が史上最高値を更新したことで、世界的金融不安・株価下落は一旦、はっきりと終わってしまった。あれほど確かに見えた世界危機シナリオが否定され、自信に満ちていた悲観論者が突如思考停止に陥っている。もともと企業業績は高水準で見通しも暗くはなかった。米国企業は株価に対して2%の配当と3%の自社株買いの合計5% を株主に還元しており、それは1.5%の長期金利の3倍以上であり、バリュエーション上も経済合理性の面からも株高は十分に正当化できる状況であった。また空前の技術産業革命が進行し、人々のライフスタイルが劇的に変化しつつある。米国では雇用が顕著に回復し、物価の上昇圧力が高まっている。いずれも悲観論では説明できない事柄である。

 よく検証するとこれまでの悲観論の根拠が大分怪しかった。上述①投資需要が小さいと言うのは、急激な産業革命により、設備・システム・サービスの価格が急低下しているからであり、資金需要の小ささは資本生産性の上昇によると考えるほうが自然である。②中央銀行の過剰緩和が長期金利低下をもたらしていると言う議論も一面的、もし中央銀行の超金融緩和が無かったら、景気はより悪化し資産価格は下落して、行き場を失った資本は国債に集中してもっと金利を押し下げていたはずである、③の生産性の伸びの鈍化は最もまともな悲観論の根拠であるが、以下詳述するように生産性下落の統計自体が怪しい。④の世界株安との同時進行が否定された今、悲観論の根底的誤りが露呈しつつある、と言える。

生産性の伸び率低下と言う統計は全く信用できない
 近年の生産性の伸び率低下は統計上では、否定できない事実である。図表5は米国コンファランスボードが発表した世界各地域の生産性上昇率推移であるが、2007年のリーマンショック以降の同時下落が顕著である。特に米国の生産性上昇率の鈍化が大きい(図表6)。
 
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 しかしそれならなぜ企業収益がこれほどまでに好調なのだろうか。図表8に見るように、米国企業利益は、絶対額で見ても、対GDP比で見ても、空前の高水準にある。金と人が余っているということは資本・労働投入が減っていること、加えて生産性の伸びが落ちているとすれば、余程の生産の落ち込みが起こっていると考えざるを得ない。それは企業収益に大打撃を与えているはずであるのに、利益実態は逆である。これは矛盾している。①人・金余り、②高企業収益、③生産性の伸びの低下、の3つが同時に成り立つはずはないのだから、何かが間違いなのである。そして①人と金の余剰、②高企業利益は明白な事実であるわけだから、生産性低下と言う統計が事実をとらえていない、と解釈するほかはない事態である、といえる。

 これまで悲観論者は企業収益の悪化かいずれ起きると言う想定の下で、上述の矛盾を説明してきた。しかしリーマンショックの谷を経てもなお10年にわたって企業の高利潤が定着しており、生産性が低下している、という悲観論者の論拠は危うくなっている。
 
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 これこそ生産性パラドックスと言われるものである。統計上の労働生産性の伸び率の低下が現実の経済との間で齟齬をきたしているのである。日銀は3月28日「先進国における労働生産性伸び率の鈍化」と題する調査レポートを発表しこの問題の解析をしている。日銀は生産性上昇率低下の原因として、①資本のmisallocation 、②労働のmismatch、③計測の問題(measurement problem )が指摘できる、としながら、結論は避けている。しかし3要因のうち①、②は同義反復に近く、説明力が乏しいのではないか(生産性が低下しているのに金と人が余っているとすれば、資源配分が歪んでいるからと言う議論は、言わずもがなの論理ではないか)。

生産性統計の誤りを主張する論者の根拠
 今や統計が間違っていると明確にするべき時ではないか。少なからぬエコノミストがそう主張し始めている。マーチン・フェルドシュタインハーバード大教授は「公式統計では、米国の一人当たりGDP伸び率は2.2%(1891-1972)から1.5%(1972年~)へと鈍化している。しかし実際は逆に約3%上昇していたのではないか。経済統計は新しい製品やサービスがもたらす生活水準の上昇の大半をとらえていない(空調設備、抗がん剤、新娯楽、グーグル・フェイスブックによる新サービス等)」Martin Feldstein(日経9/7/15)と主張している。

 またエリック・ブリニョルフソンMIT教授、アンドリュー・マカフィー教授は「第二の機械化時代」、つまり第一の機械による肉体労働の代替に次ぐ、第二のコピュータによる知力代替の時代が到来していることを述べ、「ムーアの法則(2年で2倍)は持続し、生産性の伸びは落ちていない。生産性上昇が過小評価されている。①コンピューティングパワーの生産性の過小評価(MPUの価格下落停止による)、②新規サービスが捕捉されていない、③消費者余剰(市場価格を上回る消費者が獲得する利便性)、④無形資産投資の過小評価など、が要因である。」と主張している。それはアマゾンの創始者ジェフ・ベソス氏が主張する “We are nearing the Golden age of AI” という大局観とも整合的である。

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