企業価値に対する意識の変化~マッキンゼー『Valuation』最新版を読んで~

企業価値向上のための経営戦略

 最後に、第6版には第3版では存在しなかった一群の章が加わっていることに気づきます。

 「Managing for Value」(「企業価値向上のための経営戦略」といった意味でしょうか)というセクションの下に、「企業の事業ポートフォリオ戦略」、「パフォーマンスの管理法」、「M&A」、「事業分割」、「資本構成、配当、自己株式取得」、「投資家とのコミュニケーション」という6つの章が並んでいます。(なお、筆者が確認した限り、これらの章は2010年発行の第5版から登場しています。)

 たとえば「企業の事業ポートフォリオ戦略」の章を読むと、「傘下にある各事業を保有するにあたって、自社が価値創出の観点から最良のオーナーであるかを分析し、事業ポートフォリオを構成すること」「(分析の結果、ある事業を分離売却することになったからといって)事業の分離は経営の失敗をあらわすものではない」と書いてあります。

 また、「投資家とのコミュニケーション」の章では、IR活動の効用として、「株価と本源的価値とのズレを大きくさせない」、「自社をよく理解している投資家のベースを築くことができる」、「経営陣が、投資家の意見を誤解してまずい戦略的決定を行うことを防止する」といった点が強調されています。つまり、これらの章はもっぱら企業経営者に向けて書かれている、と読めるのです。

経営者と投資家の双方が考える企業価値

 「おや?」と思いました。本書は従来、投資銀行家やファンドマネージャー、アナリスト等、金融機関に勤務する実務家が主要な読者層、と筆者は想定していたからです。しかし考えてみれば、マッキンゼーは経営コンサルティング会社ですから、株式を発行する企業のCEOやCFOが読んで有益な考え方の枠組みが論じられているのは当然といえます。そもそも企業価値の向上は、直接的には投資家ではなく経営者が担うものです。

 とはいえ、2000年発行の第3版には全く存在しなかった項目が、今や一定の紙幅を費やして論じられているという事実には何らかの意味があるのではないでしょうか。想像するにそれは、経営者と株主が共通の知的基盤の上に立ち、それぞれの立場から企業価値向上について意見を交わさねばならない、という著者らの問題意識、またはそれを求める資本市場の潮流を反映したものではないでしょうか。そうだとすれば、企業と株主との本格的対話がようやく緒に就いた日本に投資する機関投資家の一員として、大いに勇気づけられることです。

※ 当コラムは執筆者の見解が含まれている場合があり、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の見解と異なることがあります。上記の企業名はあくまでもご参考であり、特定の有価証券等の取引を勧誘しているものではございません。

このページのコンテンツは、スパークス・アセット・マネジメント㈱の協力により、転載いたしております。

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