Don’t fight BOJ 日銀の非伝統的政策進化は必至 ~理論的帰結は大幅な株高~

(3) 中央銀行が直面する新環境、何故非伝統的金融政策が必要なのか

潤沢な超過利潤の定着が金融困難の根本原因
 中央銀行がかくも切迫した政策を打ち出さざるを得ないのは、世界の経済金融情勢が低成長とデフレ陥落の懸念を払しょくできないからである。故に一連の展開は世界経済の困難化、危機進行に対する中央銀行の弥縫策ととらえられがちである。絶望的経済困難に対する向こう見ずの政策対応、と考えれば一連の中央銀行の非伝統的金融政策を、無謀な政策として批判することも理解できる。

 しかし実態はそうではない。技術の発展と経済の進化により金融実態が変容を遂げ、その新しい環境にふさわしい制度と政策が模索されている、と言うものが正しい評価であろう。IT・AI革命とグローバリゼーションにより企業の超過利潤が恒常的に増加すると言う普通ではない歴史環境がその背景にある。企業による価値創造は活発なのに資本(創造された価値)が有効に活用されずに、いわゆる安全資産(現金・預金・国債)と言う非リスク資産(=ゼロリターン資産=将来キャッシュフローの無い資産)に滞留する傾向が年々強まっているのである。

現代金融の最大矛盾、利潤率と利子率のかい離拡大
 その結果、本来同一であるはずの資本のリターンが、利潤率と利子率とにかい離し、両者のギャップが異常の長期にわたって定着、拡大している。この利潤率と利子率のかい離、r1>g>r2 (r1:利潤率、g:経済成長率、r2:利子率 )という不等式が定着した現実こそ、ここ10数年の世界金融情勢の最も本質的特徴である。トマ・ピケティ氏はr1>gつまり資本のリターンが経済成長より高いことに注目しそれが格差を引き起すと主張した。他方先進国の中央銀行は、g>r2つまり資本のリターンが限りなく低下しそれが経済成長を押し下げようとしている現実に直面している。本来同一であるはずの資本のリターンが利潤率r1と利子率r2に分かれ両者が限りなくかい離し続けているのである。米国においては、それは図表5に顕著であるが、特に図表6に見るように2004年ごろから定着した米国長期金利の低迷現象、つまり長期金利が名目経済成長の上昇や金融引き締め(=短期金利の引き上げ)に無反応化しているところに如実に表れている(いわゆるグリーンスパンの謎)。
 
zu5-6
 
 教科書的な経済常態は、利潤率と利子率は連動すると考えられ、実際そうだった。景気拡大に伴い、企業の収益が向上する時には当然ながら金利は上がる。しかし、今起こっているのは、両者の極端な乖(かい)離である。企業は大儲けしているが、儲かったお金を再投資できなくて遊ばせ、金利が下がっている。利潤率は市場価格ベース(株式益回り=利益/株価)で見ても、簿価ベース(株主資本利益率(=ROE=利益/株主資本簿価)で見ても7%以上と高いのに、長期国債利回りは日本でマイナス、ドイツやフランスで0%台、米国でも1.8%台と異常に低い。図表7,8に日米の簿価ベースで見た利潤率(=ROE)と10年国債利回りの推移を示すが、両者の連動性が日本では2004年以降の業績回復場面以降、米国では2010年のリーマンショックからの業績回復過程以降完全に失われていることが明らかである。
 
zu7-8
 
 また図表9には米国における時価ベースで見た利潤率(=益回り)と10年国債利回りの推移を示すが、2002年頃以降それまでほぼ同一の動きを示していた両者がどんどんとかい離していることが鮮明である。この時価ベースでの利潤率と利子率のかい離は株価上昇(→益回り低下)によって解消されていくシナリオがある。非伝統的金融緩和の一つの帰結はそれであろう。
 
zu9
 
QE、マイナス金利の本質は知恵のあるリスク資産への資本誘導
 この状況は新たなIT・AI革命がもたらした生産性向上によって、企業が著しい超過利潤を獲得しているということから起こっている。マイクロソフト、アップル、グーグル、フェイスブック、アマゾンなどの高い収益は、知恵がもたらした超過利潤とも考えられる。AIなどの技術・機械を総動員してとてつもない人間生活の「快適さ」という価値に結び付ける知恵こそが富の源泉であり、それは企業活動そのものである。そしてその価値を体現するものこそ株式といえる。

 このように考えると資本にも知恵のない資本と知恵のある資本の二通りがあることがわかる。現金預金国債といったいわゆる安全資産とは知恵のない資本でありリターンが限りなくゼロに近づくのはやむをえまい。しかし他方有能な経営者にけん引される企業の株式は知恵のある資本であるから、リターンは著しく高くなるのは当然である。しかしIT・AI革命がもたらした余剰資本が投資先がなく、リスクフリーの国債や預金に滞留し金利を引き下げているということは、企業部門で活発に創造された価値が、退蔵され資本として機能停止しているということであり、マネーの流通速度が極限まで低下すれば、体に血液が循環しない患者のごとく、ゾンビ化していく。低成長、デフレ陥落の危機がそのようなものであるとすれば、量的金融緩和やマイナスの金利などの非伝統的金融政策の新機軸を駆使して、資金を知恵のない資本(=安全資産=ゼロキャッシュフロー資産)から知恵のある資本(リスク資産=キャッシュフロー潤沢資産)へと追い立てることが求められる。非伝統的金融政策は有意義であると解釈できる。

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