「企業価値を高める経営戦略」

 10月に開かれた世界経営者会議(日経新聞主催)で、アサヒグループホールディングスの泉谷社長の話を聴いた。企業価値創造について、一つのあるべき姿を描いているので、印象に残った点をまとめてみる。

 アサヒグループHDは創業124年目、売上高1.6兆円、従業員1.8万人、海外売上比率10%、時価総額1.3兆円の企業である。グローバルに見た時、コカコーラ、ネスレ、ペプシコ、AB Inbev(アンハイザー・ブッシュ・インベブ)を第1グループとすると、企業価値と売上規模でみて、第2部グループに属すると会社側では認識している。

 従来は規模、シェア、売上成長を中心に経営を考えてきたが、これからは企業価値を中心に据えると、泉谷社長は明言する。市場がグローバル化し、外国人投資家が中心となる中では、キャシュフローを重視し、利益の配分をよく考え、M&Aも柱にしていく。国内市場が縮小する中で、どう成長するか。国内を守りつつ、海外を成長エンジンにしていく。グローバル企業を目指すには、企業価値を全面的に追求する必要があると強調する。

 2020年に向けた長期ビジョンでは、“ありたい姿”を掲げた。それは、顧客、取引先、社会、社員、株主という5つのステークホルダーに対するビジョンをそれぞれ明示し、固定的な定量目標は定めず、ビジョンを思いとして表現している。

 一方、その実現に向けた中期3カ年計画では、2015年までの実行計画として、具体的なKPI(重要経営成績指標)を示している。新しい経営方針として企業価値の向上を第一義としているが、それは財務的価値(時価総額)と社会的価値(CSRレピュテーション)の双方を追求する。

 1つは、ファンダメンタルを強化すべく、経営インフラの向上を目指し、KPIとしてROE10% (20102年実績8.4%)の達成を目指す。もう1つは、ビジネスモメンタムとしての成長で、これはEPS(2012年度123円)をKPIとして、年平均10%以上伸ばすことを目標とする。

 泉谷社長は、経営メカニズムを効かせた企業価値向上経営を目指しており、経営者と投資家がそれを共有できれば、長期的な価値向上の仕組みになるとみている。

 見えない企業価値をどうあげるのか。それには経営力、人材力、商品力、マーケティング力を集結して、インタンジブルアセット(無形資産)としてのブランド力を上げることに全力投入する。ブランド力を上げれば企業価値は向上するという論理だ。

 例えば、スーパードライのブランドの鮮度をいかに保っていくか。1987年に発売して以来いろいろな手を打ってきたが、20年もたつと若い人にとっては親父のビールになってしまっているかもしれない。新しい飲み方の提案という点で、エキストラコールド(-2度)をアピールして、エクスペアリエンス(経験)による認知度を高めようとしている。

 インタジブルのもう一つの要は人材力であると強調する。社員の成長=企業の成長である。人の集まりである組織の能力を上げるには、人の能力そのものを上げる必要がある。そのプロセスで、各人の仕事の定義付けと能力付けを明確にしようとしている。そのために人材の育成に力を入れている。ネクストリーダー・プログラム、エグゼクティブリーダー・プログラム、エグゼクティブ・インスティチュートなど、いくつかのレベルがある。形を作っただけで上手くいくものでないとして、社長自らこれらのサクセションプラン(後継者作り)に全力を投入している。

 少子高齢化にはどう向き合うか。社会保障の確保に向けて、消費税が上がってくる。消費税に見合って価格を上げれば需要は減る、という図式でものごとを捉えるのではない。物価が上がる中で、消費の多様化は一層進む。高額品も売れるのだから、価値ある商品を投入して、プロダクトミックスを作っていくと強調する。大事なのは納得価格であって、価値を上げれば価格はついてくるという。

 アサヒビール再興の歴代の社長を見て、自らも実践しているリーダーシップがある、と泉谷社長は話す。①まず頭でよく考える。しかし、その時はまだ口に出さない。②次にハートを見る。心に訴えてみる。③そして腹をくくる覚悟をする。その時でもまだ口には出さない。④それから歩き回る。現場に行って客の声、若者の声を聞く。⑤その上で口に出す。社長が口にしたことは重い。思い付きではダメで、いい意味での現場主義に徹することである、と質問に答えた。

 アサヒグループHDは、買収防衛策を廃止した。規模を追うためのM&Aもしない。さらに企業価値創造に社会的価値も組み込もうとしている。ROEと共に、フリーキャッシュフローの確保、D/Eレシオ(1倍)、自己株式取得も含む総還元性向(50%)の宣言など、実に具体的である。これに資本コストの開示が加わってくれば申し分ない。

 今回の中期計画がどこまで実践できるか。その成果が上がってくれば、価値創造企業として一層高い評価を得ることができよう。

日本ベル投資研究所の過去レポートはこちらから

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