「ものさしの多様化~会計をいかに使いこなすか~」

 この2年間、金融庁の企業会計審議会に参加した。6月に出された「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」では、3つの方針が具体化した。

 1つは、任意適用条件の緩和である。日本の企業がIFRSを使いたいといっても、自由に使えるわけではない。しかし、使いたい企業を制約する必要はないので条件を緩めた。上場企業でなくても、グローバルに大きな規模で活動していなくても、IFRSをしっかり適用できる体制が整っているならば使えるようになる。海外拠点をもたない企業でも、IPOの会社でも使えるようになる。

 2つ目は、IFRSの日本版を作ることになった。今のIFRSの基準の中には、どうしても受け入れがたいものがあるという産業界からの意見は強い。アナリストから見ても、利益に対する考え方や含み益の会計処理について馴染めないものがある。そこで、世界的に高品質で単一な会計基準を作っていくという考え方には賛成であっても、今のピュアなIFRSをそのまま全面的には受け入れられない。

 そこで、受け入れられない項目は除いた(カーブアウトした)日本版のJ-IFRS(エンドースメントIFRS)を作ることにした。これから1年ほどかけてASBJ(日本の企業会計基準委員会)で議論をして、早ければ2015年3月期からJ-IFRSが使えるようにする。それならば使ってみたいという大企業はすでに存在する。

 3つ目は、単体開示の簡素化である。すべてが連結中心になってきたので、単体の開示は金商法ではなく、会社法のレベルでよいこととする。単体でしか得られない情報というのもいろいろあるが、それは会社やセクター(業種)によって異なる。投資家にとって必要なものであるなら、開示を要求していけばよいし、会社側でも投資家の理解を得たいのであれば、それに応えてこよう。

 ピュアなIFRSは2010年3月期から任意適用となり、使いたい会社は使えるようになった。すでにピュアIFRSを適用したいという会社は20社ほどある。今後、適用緩和を受けて、この数は50~100社へ増えていこう。また、J-IFRSについても、2015年3月期以降に任意適用になれば、その数もかなり増えていこう。大手企業の100社から200社がIFRSを採用すれば、時価総額でみて東証の半分は超えてしまう。日本でもグローバルに活躍したい企業はIFRSを使うようになろう。2020年に向けての動きである。

 課題は3つある。いずれも投資家サイドからみた時の分かり易さ、使い易さである。1つは、4つの会計のものさしが混在するようになるということである。日本基準、米国基準、ピュアIFRS、J-IFRSの4つである。いずれも日本の市場で上場企業が4つのものさしを使っているわけだから、投資家やアナリストはそれぞれの違いをよく知った上で、活用していく必要がある。

 なぜ4つもあるのか。まだ、連結会計で十分でなかった20年以上前は、単体が中心であった。しかし、当時の日本を代表する企業は米国に進出しており、米国に上場することや米国の投資家にすぐに分かってもらえる基準で財務データを見せる必要があった。それで、日本で米国基準が使えるようにした。

 次に、IFRSが細かい違いがあるとしても、世界100カ国以上で使われるようになってきた。日本でもそれを使えるようにしておくことは避けられないと考えた。そこで、ピュアIFRSが任意適用となった。

 そして、今回のJ-IFRSの導入検討に至る。①のれんの定期償却は続けたい、②R&Dは資産計上するよりも従来通り早めに費用で落としたい、③バランスシート上の資産を時価評価をしたとしても、実際に資産を処分した時にはこれまでのように必ず損益計算書に反映させたい、④営業利益、税引利益などの利益の概念はかなり意味があるので、今まで通り使いたいなどの要望を検討することになろう。

 ピュアIFRSとJ-IFRSが違いすぎると、J-IFRSは、そもそもIFRSと違うものであると言われかねない。受け入れがたいものを際立たせて、日本から見たあるべきIFRSを提示して、世界にもの申すという対応が裏目に出ることにもなりかねない。ものさしが変わると、企業経営者の意思決定が変わる。そうすると、投資家の投資判断にも影響が出てくるので、注意して利用する必要がある。

 2つ目は、4つが存在するのは一時的なステップであって、いずれ収斂させる必要がある。その時、収斂を自然に任せておくのか、つまり企業が任意に選択できるままでよいのか、何らかの強制力によってまとめていく必要があるのか、という点である。今回は強制適用の是非については判断しないと決めた。しかし、投資家は利用しにくいので、すっきり分かり易くしてほしいと思う。よって、早い時期に何らかの強制的な方向を出してほしいと考える。

 3つ目は、4つのものさしの中で、日本企業が本当に強くなっていくのかという点である。企業経営の本質は会計というものさしによって変わるものではない、という考え方がある。私もそう思う。しかし、人々はものさしによって見えてきた表面的な数字に左右されやすい。そもそもものさしは、同じ尺度で測り、比較し易くするためのものである。それが4つもあって、さほど違わないといわれても、大きないくつかの点ではっきり違っているわけだから、企業の見え方が変わってくる。

 われわれ投資家、アナリストは、財務データだけで会社の善し悪しや、売り買いの投資判断をしているわけではない。非財務情報も十分みていくが、重要な財務データについて、いつも修正しながら比較可能性を高めていくという作業を当分続ける必要がある。日本企業には4つのものさしに負けないくらい強くなって欲しいが、多くの企業は当面悩みながら情報開示を続けることになろう。我々は企業の価値創造の本質を見抜くように、ものさしを活用していきたいと思う。

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