☆ビジネス・レポート第五十一号☆

~原理原則思考~

1 ビジネスにおいては、あらゆる局面で様々な課題の解決を迫られる。その際の思考方法のひとつに、原理原則思考がある。その名のとおり、原理原則に則った思考方法のことだが、原理主義とは違う。原理主義は原理からの逸脱を許さないが、原理原則思考はその修正や例外を許容する。許容するというよりむしろ、修正や例外を最初から前提とした柔軟な思考である。法律家の世界でいう「リーガル・マインド」の意味は、原理原則思考がその大部分を担っている。
 現在見直し作業が行われている裁判員制度を例にして、原理原則思考について考えてみよう。

2 裁判員制度は、勿論、裁判の実施における制度である。裁判とは、三権分立のもとにおける三権(立法・司法・行政)の内、司法権によって行われる。三権分立は、国家が独占する権力を3つの作用・機能に分かつことによって、権力の集中によって生じる弊害を除こうとする、近代以降の国家制度である。近代国家は、国家権力の担い手を国民(市民)とするから、3つに分かたれた国家権力のそれぞれ(立法・司法・行政)の究極的な担い手は、いずれも市民である。しかし、司法権で言うところの法とは、他の二権(立法・行政)で扱う法律とは異なる意味を持つ。すなわち、立法権(議会)で市民の名の下に制定された法律を、時として司法権は否定したり解釈を施すことによって内容を変えてしまうことがあるが、それは社会的正義の名の下に行われる。すなわち、国家権力の究極の担い手を市民とする制度において、選挙制度も議会の議決制度も多数決原理によって可否を決する制度であって、言い換えれば、100人に聞いたところ51人が賛成した正義(相対的な正義)が実現される結果になり、場合によっては多数者の横暴にもなることがある。司法権は、この多数決原理によって生じる弊害を除去するため、絶対的な正義の実現を目指す作用である。この絶対的な正義とは議会によって定められた法律の上位に位置する「法」であり、司法権は「法の支配」を実現する作用・機能を担うのである。

3 さて、裁判員制度は裁判の民主化を目指して実施された制度である。しかし、上記の原理原則の則った司法権(裁判制度)のあり方から考えれば、裁判を民主化するということの意味について良く考えて見なければならないことがわかる。原理主義は、司法権は多数決原理によって実現される民主主義を是正する作用だからそこに一般市民が直接参加することは許されない、と考える。しかし、国家権力の究極的な担い手は市民であるという民主主義的な原理原則も一方にあるから、裁判の民主化という思想自体は誤りであるとは言えないだろう。そうすると、問題は裁判員制度の制度設計にあり、裁判員制度を三権分立思想の修正と考えるのか、それとも例外と考えるのかという、課題解決に当たる姿勢が問われることになる。いずれの立場をとるにせよ、法の支配や司法権の独立という、司法権と他の国家権力作用(立法・行政)との緊張関係を維持して市民生活を守るという原理原則と、国家権力の究極の担い手は市民であるとする民主主義的な原理原則の双方を踏まえて、この課題を解決しなければならない。

4 裁判員制度を例にして原理原則思考を考えてみた。しかし、所詮、原理原則思考は考え方や議論の整理方法であって、結論を導き出す作業は判断者に委ねられている。私が言いたいことは、ビジネスにも必ず原理原則はあるから、原理原則に則った思考や議論を十分に尽くす必要がある、しかし、最後に決断を下して針路を決するのは、柔軟な思考方法を身につけた「人間」である、ということである。

SBI大学院大学教授 中田光一知

 
このレポートは2012年11月7日に配信したものです。

このページのコンテンツは、SBIホールディングス㈱様の協力により、転載いたしております。
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