5. 市場全体のリスクを売り買いする

前回の記事はこちら→運用手法における時価総額指数(→https://money.minkabu.jp/36965)

 これまで、指数自体の紹介、時価総額指数の計算方法と役割、機関投資家と資産運用会社がどのように時価総額指数を使っているか、について説明してきました。

 では、これらをベースに、ETFについて議論を進めましょう。過去に行われた米国の金融研究によると、ランダムに銘柄を選んでポートフォリオに採用する銘柄数を徐々に増やしていくと、銘柄数が増えるにつれて分散効果が働いて個別銘柄に特有のリスクは消えていき、残るのは市場全体のリスク(=市場リスク)だけになることが分かっています。だいたい30銘柄ぐらいを超えると市場リスクだけが残ることが分かっています。

 単純化した話をすると、株式を保有する投資家は2つのリスクを負うことになります。一つが市場リスク、もう一つが個別銘柄リスクです。1銘柄に投資するとこの2つのリスクを負うことになるのですが、銘柄数を増やしていくと個別銘柄リスクは徐々に低減します。これが分散効果です。

 株価指数は数百銘柄以上を対象に計算されているので、充分な分散が達成されています。つまり株価指数は市場全体のリスクを表しており、そのために株式市場の指標と認識されています。また、先ほどの話通り、だいたい30銘柄以上になると分散効果が実現しますので、最初の回で説明した通り、日経平均(225銘柄)でもTOPIX(1,400銘柄以上)でも、短期的にはほぼ同じ動きをします。従って、どちらの指数も市場リスクを表していると言えます。専門的には株式投資リスクをする際に、他のリスク要因(業種・規模等)も存在しているのですが、まずはETFとのつながりを説明するために、ここでは割愛します。

 さて、ETFのメリットに直接つながる話になりますが、ETFの良いところはこの株価指数のリターンとリスクをほぼそのまま投資家が獲得することができることです。つまり、投資家は、個人投資家でも、ETFを使えば市場全体を自由に売り買いすることができるのです。これは非常に大きなメリットで、ETFが普及し始めた2000年以前はまず考えられなかったことでしょう。(古い話ですが、80年代頃にある投資家が証券会社の店頭で「日経平均を下さい」と言ったという笑い話がありました。当時はETFが存在していなかったため、これが笑い話だったわけですが、現在はETFを使って何の苦も無く日経平均を売買することが可能です。)

 では、市場全体を売り買いすることができるようになったことの何がメリットなのでしょうか? 2つのケースをご紹介しましょう。

① とりあえず日本を買っておく

 ある日突然、欧州債務危機が大幅に改善する見通しが立ったとします。欧州経済が息を回復し、世界の不安要因が解消することが分かりました。とりあえず株式投資家としては「買いモード」です。では何を買うのか。気になっている銘柄が以前からあればそれを買うというのも方法ですが、本当にそのニュースで一番メリットを受ける銘柄が何かはまだ分からない。そんな時に、「もう少し影響を見極めよう。その上でどれに投資するか決めよう。」というスタンスを取るでしょうか?もっとダイナミックな考え方としては、「欧州が回復するので、世界経済も好転しそうだ。輸出中心の日本経済全体も好影響を受けそうだ。」こういう時に、「とりあえず日本を買う」という行動を取れるのがETFの良いところです。日本に上場している日経平均でもTOPIXでも、あるいは米国に上場しているMSCIジャパンのETFでも構いません。どれも日本市場全体のリスクとリターンを再現する指数であり、非常に多くの投資家が常に売買しているETFです。

 さて、これを投資信託と比較してみましょう。こんな時、窓販の投資信託の場合、ETFとの比較では機動性に欠けます。欧州回復のニュースを見たのが夜のニュース番組だった場合、翌日の朝に銀行に行って株式投信を買っても、約定するのはその日の夕方の基準価格です。投信は一日に一回しか売買できないため、日中の相場変動が織り込まれた価格での購入になってしまいます。ETFの場合、夜中にニュースを見て、ネット証券でそのまま翌日の寄付きで発注しておくことができますし、米国市場でリアルタイムで購入することさえ可能です。この機動性・グローバル性がETFの面白さであり、大きなメリットです。

 それから数日間ニュースをフォローして、あなたは、実は欧州経済の回復の最も大きなメリットを受けるのがC商社ではないかと思ったとします。その時になってETFを売却してC商社株を買っても良いですし、ETFを売らずにC株を買っても良いでしょう。どちらにしても、「株の上昇」はETFできっちり獲得しているので、「タイミングを逸したので、今からC株を買うのは遅いのではないか」などと、従来から株式投資家を悩ませてきたタイミングの悩みからは解放されます。このように市場全体に影響を与えるようなニュースが出た際に、とりあえず個別銘柄分析をするまでの間、機動的に市場全体を売買できるのがETFの第一のメリットです。

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