☆ビジネス・レポート第四十九号☆

~起業家の新たなコンセプト:リーン・スタートアップ~

 急速に進展したクラウドコンピューティングは、インターネットビジネスにおける起業を容易にした。例えばグーグルやアマゾンなどが提供するクラウドサービスを利用すると、開発コストは劇的に低下する。そして、Facebookやtwitterのようなソーシャルメディアを用いれば、マーケティングコストは不要であり、スマートフォンやタブレット向けにアプリケーションを提供するビジネスは、アップルやアンドロイドのマーケットを活用するために流通コストもほとんど必要ない。
 例えば、2007年に創業した個人向けストレージサービスを提供するDropboxはアマゾンのクラウドで開発を行い、ユーザーが友人を誘うと使用容量が増加するというキャンペーンをソーシャルメディアで展開したのみであるが、既に5,000万人以上のユーザーを抱え、1億ドル以上の売上を計上している。Dropboxは未だ未上場企業なので、正確な調達金額は明らかではないが、創業時にStartup Acceleratorからわずか20,000ドルを調達した後しばらくは、主に個人投資家からのファイナンスのみで運営されてきた。
 こうしたことは、新規事業を始める際の長い開発期間、最初の顧客を獲得するまでの高いコスト、巨額のファンドをもつベンチャーキャピタル(VC)が、ベンチャーに数百万ドルを投資するVCの投資モデル等全てが、大きな転換点に差し掛かっていることを意味する。
 このように起業が容易になった時代、起業家の間で注目されているのが「リーン・スタートアップ(Lean Startup)」というコンセプトだろう。“Lean”とは、「ぜい肉の少ない」という意味で、端的には徹底的に無駄を省いて新たなビジネスを興すことを指す。この意味ではトヨタのリーン生産方式と同様である。より具体的には、ビジネスを小さく始め、顧客の声を聴いて修正を加えながら拡大させるタイプの起業を指すと考えればよいだろう。
 リーン・スタートアップのコンセプトを理論的に支えるのは「顧客開発モデル」といわれる、新規事業開発の新たな考え方である。これは、シリアルアントレプレーのスティーブン・ブランクが、著書“The Four Steps to the Epiphany”(邦訳:「アントレプレナーの教科書」)で提唱したものであり、彼の著書はUCバークレーやスタンフォードの起業家教育のコースで使用され始めている。
 顧客開発モデルとは、顧客と共に製品開発を行うモデルであり、これまでのように、市場に投入する以前に様々なアルファ/ベータテストを入念に繰り返して行った後に、はじめてサービスを開始するのではなく、素早くベータ版をリリースし顧客と共に製品を改良していくモデルのことである。
 このモデルは、いつまでにどのような機能を実装してリリースするかという“マイルストーン”の達成や、それをスケジュール通りに行うことを重視する従来の製品開発の方法論とは一線を画す。重要なのは、どんな機能がユーザーに受け入れられて、どれが受け入れられないかを学ぶための学習を短期間に数多く繰り返すことである。
 リーン・スタートアップの理論的背景である、この顧客開発モデルは、先に述べたクラウドコンピューティングの時代にこそ可能な方法論だといえよう。既存のクラウドサービスを活用することで、顧客開発モデルを実行することは容易になり、その結果としてリーン・スタートアップが注目されていると捉えられる。
 当然、起業家が成功するビジネスを考えるためには、事業計画が必要であることは言うまでもない。しかし、インターネットビジネスでの起業を考える際には、いわゆる“Learning by doing”をこれまで以上に重視し、「とにかくやってみよう」という思考も求められている。

SBI大学院大学教授 教授湯川抗

 
このレポートは2012年8月10日に配信したものです。

このページのコンテンツは、SBIホールディングス㈱様の協力により、転載いたしております。
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