☆ビジネス・レポート第四十五号☆

◇◇「わが国の『赤字国転落』をどうとらえるべきか」◇◇ 

 本年1月25日の財務省(関税局)の発表によると、わが国の2011年の貿易統計(通関統計)は、1980年以来、31年ぶりの赤字(2.6兆円)となった。
実は、財務省が発表する貿易統計にはもうひとつあって、国際収支(経常収支)ベースの貿易統計と呼ばれているもの(通関統計に所有権移転ベースへの調整等をして日銀が作成)であるが、こちらも1963年以来、48年ぶりの赤字(1.6兆円)となった。
経常収支の中核である貿易収支が、このように数10年ぶりの赤字に転じたことから、わが国が経常赤字国化するという近未来予測がいよいよ現実味を帯びてきたように見える。
それと同時に、わが国の「赤字国転落」を嘆き、国債の国内消化が難しくなることを懸念する声も高まっているようにも思える。
しかしながら、本当にわが国の経常収支は、早晩、赤字化してしまうのか、また、仮にそうなったとしても、「赤字転落」と嘆くべきものなのか。この2点を以下、考えてみたい。
 まず、わが国の経常収支が早晩、赤字化するとの予測であるが、以下の諸点から見て、その可能性はそれほど高いものではない、と考えられる。
まず1点目は、2011年の貿易赤字(通関統計)が31年ぶりに赤字化したのは「特殊要因」によるものであった点である。すなわち、輸出面では東日本大震災やタイの洪水、円高の影響など、輸入面では原発停止による液化天然ガス(LNG)の輸入急増の影響によるものであり、足元(本年2月)の通関統計を見ると、5か月ぶりの黒字に戻っている。
2点目であるが、2011年は国際収支(経常収支)ベースの貿易収支も確かに1.6兆円の赤字であったが、経常収支の内訳を見ると、近年では経常収支の「孝行息子」(稼ぎ頭)となってくれている「所得収支」は14.0兆円もの黒字であり、そのお蔭で経常収支全体ではなお、9.6兆円の黒字を確保している点である。
3点目であるが、直近までの超円高を反映して、日本企業による対外直接投資や海外M&Aが急増しており、この結果、孝行息子である所得収支の黒字が経常収支を支え続けてくれることが今後とも、予測できる点である。
またこれと関連するが、わが国の対外直接投資の投資利回りが米国等と比べて低く、これを引き上げる余地がある点も指摘できよう。
4点目であるが、1月の通関統計の発表以来、超円高に急激な歯止めがかかり始めている。
円安は日本企業の輸出競争力を回復させると同時に、外貨建ての利子・配当の受け取り増(円ベース)を通じて、所得収支の黒字増大にも寄与するだろう。
そして最後の5点目が、「ISバランス論」(総貯蓄が総投資を上回る分だけ経常黒字となる、とする)からの見方である。この見地から見た場合、少子高齢化と家計部門の貯蓄率の低下は確かに懸念材料である。
しかしながら、投資が低迷する中で企業部門は近年、貯蓄を増やしており、家計部門の貯蓄の減少を補っている。
すなわち、わが国全体として、総貯蓄が間もなく総投資を下回ってしまいそうだ、という状況にはない。
 こう考えると、わが国が経常収支の赤字国になるのはまだしばらく先のこと、と言えそうである。それでも、一国の経済発展段階(6段階)を人生のライフサイクルになぞらえる「国際収支の発展段階説」から見て、わが国が経常赤字国化するのは必定、と言えよう。
でもそれは、私たちの誰もが老齢期を迎えるのと同様であり、経常赤字化しても、「赤字国に転落した」と嘆く必要はないのではないか。
「爪に火をともす」思いで支出を切り詰め貯蓄に励んできた団塊世代も、退職すると貯蓄を取り崩してフローの赤字を埋めていくことなるが、それは何も嘆くことではない。
わが国の経常赤字化は、これまでわが国が海外に積み上げてきた対外債権(ツケ)を取り崩すだけのことである。
さらには、過去に我慢して輸入しなかった分を輸入できることをも意味する。
 「これまでの『輸出立国』」の実態は『輸出亡国』だった」と説く識者の意見(文春新書・『黒字亡国』・三國陽夫著)がある。「国際収支の変調を嘆くのではなく、『黒字亡国』から『赤字興国』に踏み出す歴史的構造転換こそ、日本経済を長期的停滞から救い出す道ではないか」、とする論調もある。
確かに、「赤字国転落」は日本がいよいよ成熟国の域に達した証しであり、新聞の見出しの印象よりも悪くないニュースである、と言えよう。

 SBI大学院大学教授 野間修

このレポートは2012年4月10日に配信したものです。

このページのコンテンツは、SBIホールディングス㈱様の協力により、転載いたしております。
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