☆ビジネス・レポート第四十二号☆

~「今、時代は〔情報〕から〔知〕へ移行している」~

1 私たちは、文化・文明は科学の力によって進歩したものと考えて、何も疑わずにいる。しかし、今から約2300年前、アリストテレスは、『二コマコス倫理学』第6巻で、人間が真実を知るには5つの能力(方法)があって、科学はその内の一つに過ぎない、と書いている。5つの能力とは、「科学」(エピステ-メー)、「応用技術」(テクネ)、「実践的な知慮」(フロネーシス)、「理論的な知恵」(ソフィア)、そして原理原則や、興味・関心、意図等の源泉を直感的に把握する力「直知」(ヌース)である。アリストテレスによれば、エピステーメーは、観察の対象として「そこにあるもの」(必然的に存在するもの)しか解明できない。それとは対照的に、真実を知るための他の4つの能力は、現実や人生のあらゆる状況に応用することができる。

2 21世紀も早その10%超を経過し、私たちは今、時代が大きく変わろうとしていることを肌で感じている。「肌で感じる」とは、頭で認識して理解する前に、すでに直感的にわかっているという感覚である。今日は昨日の続きでないし、明日は今日の延長ではない。むしろ、過去から未来へと転換していく大きな流れの、その結び目にいて、未来が向こう側から出現して来るのを感じている、というような感覚である。すなわち、これはヌースである。この様な時代において、エピステーメーはほとんど役立たない。「出現する未来」はまだ現実に「存在するもの」ではないからだ。
  すなわち、私たちの「知」の在り様(ありよう)を、19世紀末から20世紀を通じて続いてきたエピステーメーへの偏愛から覚醒させ、他の4つの知(能力)にその比重をシフトすることが、今必要とされているのだ。転換点にある現文明を次なる新文明に正しくシフトするためには、ヌース(直知)をはじめとする、テクネ(応用技術)、フロネーシス(実践的な知)やソフィア(理論的な知)を総動員することで、「出現する未来」を正しい作法で迎えることが必要なのである。

3 このことは、現代社会において、価値を生み出す源泉は、もはや工場・設備などの物的資産ではなく、人や組織が創り出す知あるいは知的資産であることと、表裏をなしている。かつては物的生産を支えるための間接部門だった人や組織が、それ自体が価値を生み出す直接部門となりつつある(あるいは、すでにそうなっている)のが、現在の企業の存在形態である。つまり、日々休むことのない人間の活動(すなわち、生きるための営み)は、知の在り様が変化するのに先立って、意識しているいないに関わらず、すでにシフトし始め、半ば終わってさえもいる。しかし、生きるための日々の営みは連続している(つまり、昨日の続きが今日であり、今日の続きが明日である)ように感じられるから、そのことに気づかないでいる。出現する未来は、すでにその姿の一部を現在に顕わしているのに、人間の意識にはそれが見えないのだ。いわば、人間存在の在り様と意識が分裂している状態だ。そこに、現代人の病(やまい)の根元がある。

4 この病を克服するには、私たちがこれまでエピステーメーをあまりにも偏愛し過ぎていたことに気付く必要がある。それは、言い換えれば、「情報」偏重から「知」の尊重への転換である。情報は、目に見える「そこにあるもの」として存在する。情報化とは本質的にデータ化のことであって、IT(Information Technology=情報技術)社会とは、すなわちデジタル技術を用いたデータ化社会である。情報技術は、時空間の制約を超えたモノ・カネの流れを調整する技術で、かつて工場がもっぱら経済的価値を創造していた時代の間接部門(ホワイトカラー)が活用するものであった。すなわち、もちろん今でもITは有効利用すべきだが、それはもはや時代のトレンドではない。私たちの知の在り様を、「そこにあるもの」を解明するエピステーメー(科学)から、「出現する未来」を直感するヌース(直知)をはじめとする、現実や人生のあらゆる状況に応用することができる「知」に置き換えることこそ、現代社会のトレンドであることに、早く気付かなければならない。そのことによってのみ、分裂した社会は、再び全体性を取り戻すことができるのだ。

以上 
11.10.9記
SBI大学院大学教授・弁護士 中田光一知

 
このレポートは2011年10月12日に配信したものです。

このページのコンテンツは、SBIホールディングス㈱様の協力により、転載いたしております。
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