こんなに違う アナリストの今昔

先日、写真週刊誌に、外資系証券会社勤務の証券アナリストが有名女優と親密交際中、という記事が掲載されました。ポータルサイト等でもこの件は大きく取り上げられたので、ご覧になった方も多いと思います。
今回のコラムで取り上げるのは恋愛問題ではなく、記事中にあった「アナリストの現在の年収は4千万円程度だが、ITバブル当時は数億円を稼いでいた」という経済記者のコメントについてです。
4千万円というのは十分に高給ですが、それでも、往時の数億円から比べればかなり低い金額です。この理由は、アナリストとして同氏がスマートフォン全盛時代の到来を予測できなかったからではないでしょう。アナリストも間違う事はあります。そうではなく、証券会社のアナリストの業務に大きな変化が起きた事が理由だと考えられます。この変化は、個人投資家にとっても知っておいて損ではありませんので、解説してみたいと思います。

ITバブルの時代の米国の状況

ITバブルの時代を株式投資家として経験した、という方は、今となっては必ずしも多数派ではなくなってしまったかもしれませんが、本当に凄い時代でした。米国の主要3指数のうち、NYダウ工業株指数と米国市場全体の動きを表すS&P500指数の史上最高値は2007年10月に記録されていますが、NASDAQ総合指数だけは、住宅バブルの好景気が続いていた2007年に於いても、2000年3月に付けた史上最高値5,132ポイントには遥かに及ばない水準(2,861ポイント)までしか上昇していません。この2007年の高値は、NASDAQ総合指数のみ今年になって更新しましたが、それでも史上最高値は遥か上方に位置しています。

NASDAQ総合指数のチャートを見ると、ハイテク株、ネット株がまさに乱舞して、ITバブル相場が形成された事がよく分かります。

資料1:ナスダックチャート
ナスダックチャート
http://finance.yahoo.com/q/bc?s=^IXIC&t=my&l=off&z=l&q=l&c=

証券アナリストの「活躍」

株価が狂喜乱舞するその影で、リサーチアナリストの利益相反行為が繰り広げられていました。ネット株等のIT銘柄を担当する花形アナリスト達は、投資銀行部門※での業務受注の為に信じられないような高い目標株価を公表して、さながらITバブルの応援団と化していたのです。
※投資銀行部門:企業が株式や債券を発行して資金調達を行う際にそれらの引受を行ったり、M&Aのアドバイスを行ったりする部門。
上場企業を顧客として仕事を行う。

それに対して、投資家を顧客として仕事を行う証券会社所属のリサーチアナリストは、単純化して言えば、株価がフェアバリューに比べて安いと判断すれば買い推奨を行い、逆であれば売り推奨を行い、フェアバリューに近いと判断すれば買いでも売りでもない中立の推奨を出す、という仕事です。

上場企業にとっては、影響力のある証券会社のアナリストに売り推奨をされると、株価に悪影響があるので、好ましい事ではありません。そこで、証券会社に圧力をかける、という事が行われるケースも存在していました。というよりは多くの場合、証券会社サイドが上場企業の立場を忖度して、社内のアナリストにプレッシャーをかけていたのが実態だったのでしょう。

何故なら、株式売買の委託手数料に比べ、投資銀行部門の引受やM&Aアドバイスといった業務に対する報酬の方が、遥かに多いからです。上場企業は重要なお客さんなのです。株式や社債をよく発行したり、M&A活動を活発に行う企業は、特に重要な顧客です。
なので、投資家に(営業マンを通して)投資アドバイスを行うのが本業である筈のリサーチアナリストが、投資銀行部門の業務に関わっていた事が、何よりも問題視されたのです。

投資家から貰う委託手数料だけが報酬の原資ではなく、投資銀行部門の収入からも報酬を貰っているとしたら、アナリストは投資銀行部門の立場に配慮せざるを得なくなる訳で、投資家と上場企業のどちらのサイドに立って推奨を行うのか?という点で利益相反が起きてしまいます。

ITバブル崩壊後

ITバブル崩壊後の2002年に、当時のスピッツァー・ニューヨーク州司法長官と米証券取引委員会(SEC)が、株式調査業界の捜査に乗り出し、シティグループのジャック・グラブマン氏やメリルリンチのヘンリー・ブロジェット氏らの花形アナリストが、ITバブル時に、企業の投資実態とかけ離れた投資評価をしたとして問題視され、両氏は、2003年にSECによって証券業界から永久追放されました。この2人に課された制裁金等は総額1,700万ドル(1ドル80円で13.6億円)です。

勿論、制裁金等を課されたのはアナリスト個人だけではなく、ウォール街の大手証券会社10社は、規制当局との和解に際して、総額14億3,500万ドル(同1148億円)を払わされる羽目になりました。

また、これ以降、投資銀行部門と調査部門間に、厳格なファイアウォールを敷く事が求められる様になり、リサーチアナリストが投資銀行部門の業務に関わる事は禁止されました。

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