金融工学2:ポートフォリオ理論

 2つの株価がまったく無相関ならば、σxyはゼロのはずです。両者がともに輸出型産業に属しておれば、σxyはプラスのはずです。片方が自動車会社、他方が電力会社なら、σxyはマイナスのはずです。
 さて、あなたは今、500万円のお金を2つの会社の株にどのような割合で投資するべきかにつき悩んでいるとします。しかも、リスク(株式に投資した総額の分散)は高々Sに抑えたいと考えているとしましょう。あなたの持つ2つの株式の1年後の時価は確率変数p=axx+ayy と表されます。ただし、ax と ay はいずれも正の定数であり、その和は1としておきます。ax と ay は500万円の資金を2つの会社の株式投資に配分(資産選択)する比率を表しています。

 さて、解かねばならない数学的問題は次の通りです。

「S = ax2σxx + ax ayσxy + ay2σyy という制約条件のもとで、1年後の資産の期待値μ=axμx+ ayμy を最大化するようにax と ay の値を決めなさい」

 です。なお、制約条件の右辺はpの分散すなわちσpp=E(p –μ)2をxとyの分散・共分散により表現したものです。
 あなたが投資する際の株価が、それぞれx0 円とy0 円だったとするならば、500万円を ax x0 + ay y0 で割り算して得られる値の小数点以下を切り捨てた値が9500だったとすれば、9500ax 円をX社の株式に、9500 ay 円をY社の株式に投資すれば、あなたが覚悟できるリスクのもとで、1年後に最大の投資収益が期待できるということになります。もっとも、私たちは不確実性の世界にいるのですから、「期待」が「現実」のものとなる保証はないことを強調しておきたいと思います。

 ここでは2 社の株式のポートフォリオという簡単なケースについてしか考えませんでしたが、一般には、もっと多くの株式(または金融商品)の組み合わせについての最適化が行われます。複数個の株価の分散・共分散は過去のデータから計算することができますから、資産選択理論は、結構、投資信託の設計などの実用に供されたそうです。マルコビッツとシャープの資産選択理論は2時点間の比較でしかありませんでしたが、60年代末から70年代初頭にかけて、前回紹介した「伊藤の公式(補題)」を使って、連続時間軸上での最適化問題を解く金融工学が萌芽したのです。その内容については、次回の最終回で紹介いたします。

【師範】佐和隆光 京都大学経済研究所特任教授・滋賀大学学長:
東京大学経済学部卒。東京大学や京都大学の研究所の助手を務め、スタンフォード大学研究員、イリノイ大学客員教授を経て、80年より京都大学経済研究所教授。帰国後は再び東京大学や京都大学の教授を歴任。1995年より2005年まで環境経済・政策学会会長。2007年11月にそれまでの功績が称えられ、紫綬褒章を受賞した。

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金融工学3:ブラック=ショールズ方程式とは何か

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