ウォール街で最も著名な日本人・伊藤清京大名誉教授
金融工学入門3回シリーズを今月から連載いたします。難しい金融工学ないし数理ファイナンスの理論を、できるだけ分かりやすく説明してみたいと考えています。
2006年8月、伊藤清京都大学名誉教授に第一回ガウス賞が贈られました。ドイツ数学会と国際数学連合が共同で設けたガウス賞は「社会の技術的発展と日常生活に対して優れた数学的貢献」をなした研究者に対して、4年に一度の割で贈呈されます。伊藤清先生に第一回のガウス賞が贈られたのは、1951年、伊藤先生が36歳のときアメリカ数学会誌に発表した独創的論文「確率微分方程式について」に由来する「伊藤の公式」が、1970年代初めになって、金融工学の最も基本的なツールとして用いられるようになり、伊藤清先生は「ウォール街で最も著名な日本人」となられたためです。
1999年、「マネー革命」と題するNHKスペシャルが放映されました。
1997年に金融工学の創始者としてノーベル経済学賞に輝いたハーバード大学教授のロバート・マートンと伊藤清先生への大変興味深いインタビューが、その中に収められていました。まずマートン教授は「私が伊藤清先生に初めてお会いしたのは、1994年のノーバート・ウィナー(サイバネティクス=自動制御理論の創始者)生誕100年記念式典でのことでした。その日は私にとって最高に幸せな日でした。なぜなら私は伊藤先生と終日語り明かすことができたのですから」と言います。他方、伊藤清先生の方はというと「マートン先生やショールズ先生(マートンと一緒にノーベル賞を受賞した金融工学者)にお会いしたことがありますよね」とのインタビューアーの質問に答えて、「会ったことがあるかも知れないけれど、僕はまったく覚えてないね。僕は金融のことなどまったく知らないんだから。ところで、その二人の経済学者がノーベル賞をもらったと今あなたから聞いて、心底、驚いたよ」と実にそっけない返事。とはいえ、一ヵ月後の改めてのインタビューで「あなたに教えてもらったマートンさんの論文を読んだよ。僕の公式を実に上手に使っているのには、とても感心したよ」とのことでした。








